eコマース企業ザッポスは2014年5月、求人公募の廃止を発表した。代わりに就職志望者のコミュニティをつくり、緊密な交流を経て人材と職をマッチングするという「ザッポス・インサイダー」プログラムを開始。この画期的な採用制度は、他社も実践すべきものなのか。「人材サプライチェーン」の提唱者ジョン・ブードローがザッポスの戦略を紐解く。


ザッポスは従来にない画期的な人事制度を次々に打ち出してきた。たとえば、自分は社風に合わないと感じる新人社員に向けた「退職ボーナス制度」は同社が最初に導入し、やがて親会社のアマゾンに採用された。そしていま、ザッポスは求人公募を廃止しようとしている。この方針は、同社のソーシャル・リクルーティングと雇用主ブランド戦略を担当するステイシー・ドノバン・ゼイパーが「旧来の採用方法を、新しい方法で復活させる」と言うように、一昔前の時代を思い起こさせる(求人公募廃止の理由を詳述したゼイパーのブログ記事はこちら)。

 それではこれに倣い、あなたの会社も求人公募を廃止すべきだろうか。正解は「状況による」だ。こうした真新しい事例は、ただ模倣するのではなく、有意義な議論のきっかけとすべきである。つまり組織のリーダーは、人材調達について、そして「人材サプライチェーン(staffing supply chain)」についても精緻な検討を促す必要がある。

 重要な背景として、ザッポスは企業文化、社員、そしてイベントについて説明するにあたり、ずっと以前からソーシャルチャネルを利用している。そして今回、同社は新たに「ザッポス・インサイダー」プログラムを立ち上げた。ゼイパーはこう説明する。「一般の人たちがこのコミュニティに登録してインサイダーとなり、ザッポスと連絡を取り合い、名前と顔が明らかな本物の人間同士の交流をします。我々社員のことを知ってもらうと同時に、私たちもインサイダーを知ることができる場です。インサイダーの皆さんは、いつの日か――今日か明日、または将来のある時点で――ザッポスで働きたいと望む可能性のある人たちです」(インサイダーは、職の空きに際して優先的に候補者として検討される。)

 この発想は、遡ること1980年代のハイテク企業に共通した伝統的な考え方に通じるものがある。「我が社は競合他社に勤めるエンジニアについて、その雇用主よりもよく知っている」という状況につながるのだ。(注:ゼイパーはブログで、求人公募による機械的な採用プロセスでは候補者に発言の機会がきちんと与えられず、「対話が失われる」と指摘。人間関係を重視した採用〈relationship-based recruiting〉に回帰する意図を表明している。)

 もう1つの重要な背景は、この方針がコールセンターにも適用されることだ。コールセンターは多数の従業員を抱え、明確な職務内容で、ほとんどの応募者にとっておなじみの部門だ。ザッポスやアマゾンでは中枢となる職であり、重大な影響を持つ。実際、ゼイパーによれば、ザッポスは昨年31000件を超える応募を受け、その全員に対応し、そのなかからわずかに300人を採用した。つまり人材の調達と配置に大変な手間をかけているのだ。同社にはいまなお職務記述書があり、そこには(ゼイパーによれば)「実際の肩書き、職務説明、要件が記載されています。ただ、この記述書を対外的に公表するのをやめただけです」。したがって求人公募の廃止は、(職務要件を考慮しない)場当たり的な雇用を意味するわけではない。