安倍晋三政権の新しい「成長戦略」が動き出した。昨年まとめた成長戦略「日本再興戦略」は、首相の改革に取り組む本気度が疑われるもので、失望が広がってしまっていた(第71回を参照のこと)。新しい成長戦略では、「法人減税」に加えて、ずっと改革が進まず「岩盤」と呼ばれてきた「雇用」「農業」「医療分野」の規制改革を柱として打ち出している。

成長戦略立案に集まった
多士済々の人材

 安倍首相は、新しい成長戦略立案に強い意思を示し、産業競争力会議、経済財政諮問会議、規制改革会議、国家戦略特区諮問会議に多士済々の人材が集まっている。

 その中心は、「国家戦略特区」などを策定する竹中平蔵慶応大教授、八田達夫阪大招聘教授、GPIF改革を仕切る伊藤敏隆東大教授らの学者や、「産業競争力会議」の民間委員となった三木谷浩史楽天会長・社長、新浪剛史サントリーホールディングス次期社長や東レ(繊維)、コマツ(建設機械)、みずほフィナンシャルグループ(金融)、武田薬品工業(製薬)など、世界でビジネスを展開する企業経営者である。

 また、自民党政調会でも、党の「日本経済再生本部」の本部長代理を務める塩崎恭久政調会長代理が、戦略策定を側面から支えている。塩崎氏は、橋本龍太郎政権の金融改革の経験を生かし(第51回・P6を参照のこと)、族議員から改革を守る役割を果たしてきた。

 実務面を支える官僚組織の中心は、今井尚哉首相事務補佐官を筆頭とする経産省だ。また、経産省と法人税改革で激しく対立する財務省も、安倍首相に近い田中一穂が主計局長に就任し、GPIF改革などで主導権を狙っている。

 特に改革のキーマンとなるのは、やはり竹中氏だろう。例えば「国家戦略特区」には、農業委員会を通さない農地転用、医学部新設、混合診療拡大、解雇の指針作成など、かつて竹中氏が小泉構造改革で取り組んだが、断念した政策が多数含まれている。それは、「未完の小泉改革」をアベノミクスで完成させるという強い意思を感じさせる。

 だが、竹中氏が小泉政権時のような政治力を発揮するのは難しいだろう。多士済々の人材を集め、昨年よりも一歩進んだ成長戦略を立案できても、それだけでは、改革は実現しない。政策は、「政治」という複雑な過程を通らなければ実現しない。しかし、安倍政権は、成長戦略が政治という過程を乗り越えるための「仕掛け」を全く作れていないと考える。おそらく、今後起こることは、政治という過程での「大混乱」である。その現実の厳しさを、誰よりも認識しているのは、小泉構造改革で政治過程のど真ん中で闘った経験がある、竹中氏のはずだ。