フィリピン 2014年8月18日

“原発難民”の母子10人を案内するもっとも忙しい1週間

想像を超えるお母さんたちの決意

 一方、10人様ご一行は木曜と金曜はクリニックの結果と送金を待つことになるが、HSBCから送金を試みた方は手続きが終わるまで丸2日を要し、しかもクリニックでレントゲンの再撮影、それでもだめで痰の検査を3回と心休まる暇がなかった。しかし金曜の午後に着金、土曜の朝には痰の検査もOKで、いちばん早く申請書類を整えることができホッとしていた。

 土曜はセブ行きだが、午前中、時間があるので、水曜のマニラツアーで取り残したボニファシオ・グローバル・シティに案内した。グローバルシティはボニファシオ陸軍基地が1990年代に民間に払い下げられ、2000年代になってから高層ビルが建ち始めた。そして現在はマカティ、オルティガスを上回る勢いでビルの建設が進んでおり、まさに現代フィリピンを象徴する都市だ。

墓地に眠る米兵の名前が刻んである壁の前でいぶかしげに壁を見つめる子どもたち【撮影/志賀和民】

 一方、この街がどこの市に帰属するかでもめている。現状ではタギッグ市が治めているが、マカティ市も黙ってはいない。第1審の判決はタギッグ市に軍配が上がったが、第2審ではマカティ市に軍配があがり、最高裁の判決を待つことになっている。

 タギッグ市はもともとムスリム(回教徒)が多く居住し、正直、これまでは現地のフィリピン人でも近づくのがはばかれる地域だった。そこに降って沸いたような宝の山の新都市の出現だ。しかしスラム街しか治めてこなかった市役所が大都市を管理するのは容易ではなく、いろいろと問題が多発してインフラ整備も後手に回っているようだ。

 歴史的には双方に言い分があるようだが、もともと国有地だからどちらの市にも属していない。払い下げ前に国がはっきり方針を示しておくべきだし、どうせなら新規の市にしてもいいかもしれない。そのほうが小回りが効いて住民にとっても便利だと思うのだが。

 話がそれたが、この10人の親子は日本を未曾有の危機に陥れた福島原発事故による放射能汚染から避難した、いわば“原発難民”だ。2012年末にビザ取得をお手伝いした方々のグループで、多くのお母さんが同じことを考えていると話す。

 ボニファシオには第2次世界大戦で命を落とした3万7000名の米兵が眠る墓地がある。日本を逃れフィリピンの地を踏むお母さんたちとの間には70年近い年月の隔たりがあり、何の関連性もないだろうが、お子さん連れで海外への避難を決意したお母さんたちの思いはいかなるものか、想像を超えるものがある。

マニラでいちばんの美しい景色と子どもたちのはしゃぎようをカメラに収めるお母さんの思いは……【撮影/志賀和民】


(文・撮影/志賀和民)

著者紹介:志賀和民(しが・かずたみ)
東京出身。東北大学大学院修了後、日揮(株)入社。シンガポールにをかわきりに海外勤務を歴任。1989年日揮関連会社社長に就任しフィリピンに移住。2007年4月PASCO(サロン・デ・パスコ)取締役。


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