北京五輪もちょうどターニングポイントを迎えた8月15日、筆者は中国人民の熱狂の渦中にいた……。と書き出すはずが、宿泊先の周辺では“五輪的盛り上がり”というのをどうも肌で感じ取ることはできなかった。宿の立地はド外れた郊外と言うわけではなく、二環路内の、マラソンコースでもあった「平安里(天安門から直線距離にして4キロ圏内)」なのだが。正直、五輪の経済効果は庶民に近いところにはない。むしろ、立ち退き(補償問題)や工事のための道路封鎖、舞い上がる粉塵、移動の制限、物価高のせいで、損失を被ったといえるだろう。

 北京五輪のマスコット「福娃(フーワー)」。五輪の記念に、と伸ばした手を引っ込める中国人も少なくない。人形のセット(小)価格は208元(1元=約15円)、巨大な抱き人形は298元もする。庶民の小遣い程度で買えるものはほとんどない。記念コインとなれば、高価なもので5万9500元もする。

 1回の食事は5元、6元単位。野菜、果物は1キロ5毛(1毛=約7・5円)。10元のTシャツを着て、10元の理髪店に通う……、そんな庶民とは無縁の世界に、五輪キャラクターグッズの消費があった。

 北京市内に五輪ムードの高まりを感じさせないのは、Tシャツにしろ、帽子にしろ、それを身に着ける人口が少ないためでもある。皮肉にもニセモノの排除が成功(競技会場周辺を除く)したために、庶民の五輪消費を遠ざけた形になっている。

 「外に人が出てこないんだよ。観光客はみんな貸し切りバスで移動するし」

 「商売、上がったり」というのはタクシー運転手だけではない。胡同と背中合わせにある新街口南大街というストリート、軒を連ねる小売業や飲食などサービス業は「五輪効果」とは無縁の様子。テレビでの競技観戦に商売を奪われた形となった。

五輪需要で潤ったのは
ごく一部の産業のみ

 だが、五輪特需を取り込んだ業界は存在する。北京の名物かつ観光ポイントでもある北京ダックの「全聚徳」。通常の3倍の価格に設定、普段なら100元もあれば3人でおなか一杯になるところを、筆者は2人で276元(約4200円、鴨半分+水かきのコールドディッシュ+ビール2本+10%のサービス税←従来はなかった)を払った。