輸入販売業H社第一営業部で営業事務担当をしている川中さん。入社以来10年間、同部で営業事務を担当している中堅社員である。業務知識、業務スキルを十分に持ち、業務遂行スピード、正確性ともに群を抜いている。しかし、営業部のマネジャー、メンバーからの評価は、極めて低い。

顧客志向マインドの欠落が、評価を下げる
解決策は人事異動しかない

「業務のお願いをすると、なぜ自分でやらないのかと叱られる」「出張規定に基づいて出張申請しているにもかかわらず、理由を言わずに突き返される。理由を問うとさらにコスト削減できるはずだと言う」「余裕のありそうな風情をしているので、普段はお願いしていない仕事を依頼すると、イレギュラーなことは一切できないと断られる」「朝の挨拶をしても挨拶を返さないので、いつの間にか誰も口をきかなくなった」「最低限のことをやってもらえばよいので、あまり意識したり刺激したりしないようにしてきた」と営業部のマネジャーは言う。

 実は川中さん、決してダメな社員ではない。「営業事務担当者は同社の事務プロセスの基本に忠実に則り、それを逸脱するかもしれない営業部門のメンバーの監視役となるべき」と教え込まれて10年間、それを忠実に実行しているだけなのだ。

 しかし悲しいかな、時代はこの10年のあいだに変わった。そして、「営業事務担当者に営業部のサポート役になっていただき、営業部の活動を臨機応変に助けてほしい」という会社の今日の期待と、川中さんのありようが乖離してしまったのである。

 営業部長は川中さんと何度かミーティングを持ち協力を促したが、川中さんのマインドは変わらなかった。人事責任者として着任したばかりの私は、この状況をふまえて、川中さんの営業サポート意識を高めるためには、顧客志向を体得できる部門へ異動させることが適切だと判断をした。