「朝日は許せない」「捏造新聞だ」と言う人たちへ

 大学の夏季集中講座、休み時間になると同時に一人の女子大生が近づいてきて、「先生、質問していいですか」と言った。

「ここ数日私の身の周りでも、朝日をつぶせとか売国メディアだとか日本を貶めたなどと言ったりLINEに書いたりしている若い世代がたくさんいます。でもそのほとんどが、8月5日と6日に掲載された朝日の検証記事すら読んでいません。ネットニュースや電車の中吊り広告の見出しだけを読んで、朝日は許せないとか捏造新聞だなどと言っています。そのレベルで従軍慰安婦は存在していなかったのに朝日が捏造したと真顔で言っている人もたくさんいます。こういう人たちに対しては何を言えばいいのでしょうか」

 うーむ。質問されて僕も考え込む。彼女が言う「こういう人たち」は、長い文章を読んでくれない。まさか読めないわけではないのだろうけれど、読もうとしない。よほど忙しいのだろうな。たぶんこの文章も、長さ的にはそろそろ限界だろう。とっくに見出しの文字数を超過している。

 ならばレベルを下げる。バカにしているわけではない。読めないわけではなくて読む気になれないのだということを僕は知っている。だから内容のレベルではなく、文章のレベルを高校生レベルに下げる。あるいは脚色する。通俗小説にする。以下は女子大生のモノローグだ。

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 あたし、じゅんときちゃったんです。ああ違った。私よくわからないんです。そもそも宇能鴻一郎のパロディなど今の高校生レベルじゃわからないわね。最初の「じゅんときちゃったんです」は読まなかったことにしてください。

 とにかく私はわからないんです。何かというと朝日新聞の今の騒動のこと。私の周囲のほとんどの人が、朝日は「最低だ」とか「廃刊すべき!」などと書いたり言ったりしています。ネットを見ても、「売国新聞」とか「捏造を許すな」とか「日本人を貶めた」とかの書き込みばかり。月刊誌や週刊誌も同じです。例えば『週刊文春』9月18日号の中吊り広告は、特集タイトルが『朝日新聞が死んだ日』で、その後に『ロシアから帰国池上氏に平身低頭 ヒラメ役員の出世術』『役員会で殿ご乱心 「怒鳴る」「キレる」「当たり散らす」』『部下に責任押しつけ木村伊量社長はニューヨーク “高飛び”』中国共産党に国を売った朝日新聞7人の戦犯などと続きます