「サムスンに奪われたらクビだ」。現代自動車(韓国)の鄭夢九(チョン・モング)会長は、入札責任者の役員にそう言い放ったという。

 ソウルに残された最後の一等地──。高層ビルや飲食店が並ぶ繁華街、江南地区にある韓国電力の本社用地をめぐる競争入札で、9月18日、現代自動車が10兆5500億ウォン(1兆0550億円)という破格の値段で落札した。

 入札には13の企業グループが参加したが、実質的には、現代自動車とサムスンとの一騎打ちとなった。「サムスンは高く見積もっても7兆~8兆ウォン(7000億~8000億円)で応札したのではないか。それに引き換え、現代自動車は最初から1兆円を差し出す覚悟ができていた。勝負は決まっていた」(現代自動車関係者)。

 土地の評価額は約3兆ウォン(約3000億円)というから、現代自動車はその3倍もの大金を投じたことになる。鄭会長は“青天井”の現金を用意し、今回の土地取得に並々ならぬ執念を見せた。

サムスンを制し「1兆円」落札 <br />現代自動車“乾坤一擲”の賭けソウルの一等地、江南地区にある韓国電力本社。落札金額1兆円でサムスンを制した現代自動車だが、鄭会長の神通力に陰りが見える
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無謀投資に株価は急落

 百年の計を実現する──。買収した韓国電力跡地には、ガラス張り100階建てのツインタワーを建設。その新社屋に、起亜自動車や現代モービスなど、傘下の企業を集約させることは、鄭会長の悲願だったという。敷地内には、車のテーマパークや高級ホテル、商業施設などを入居させる。

 現代自動車関係者は、「ロッテワールドのようなもの? いや、もっと豪華なものになる」と自信を見せる。独フォルクスワーゲンが本社のあるヴォルフスブルクに建設した自動車のテーマパーク「アウトシュタット(自動車の街)」を模しているともいわれている。