ノーベル賞の中村修二教授の「怒り」と
逆を行く安倍政権の成長戦略施策

 青色発光ダイオード(LED)を発明した名城大学の赤崎勇教授、名古屋大学の天野浩教授、米カリフォルニア大学教授の中村修二教授の3名が今年のノーベル物理学賞を受賞した。

 中村教授は米国籍だが、筆者と同じ愛媛県立大洲高等学校の卒業である。中村教授と筆者を比べては笑われてしまうが、「受験教育」に馴染めなかったことだけは共通している。

 中村教授は、高校時代について「暗記ものが苦手でした。漢字や年号などを無意味に覚えようとすると頭が抵抗する。大好きな数学も、試験ではいつも時間が足りない。さっさと解いてしまう同級生のことを天才だと思っていました」と回想し、「試験の一番は、広く浅くのウルトラクイズ王でしかない。一番を頂点に序列化し、本人の夢や適性に関係なく進学先を割り振る。こんなバカなことに大事な中学高校時代を費やすのは、やめるべきです」と主張している(「AERA」2005年4月25日号)。

「ゆとり教育」という建前の陰で、公立校の教育の荒廃の問題を避けるために、中高一貫校や私立中学への進学を目指す親子は増加している。いまや、幼稚園児までもが受験塾に通うのが普通になってきた(第56回を参照のこと)。中村教授は、受験勉強の低年齢化、激化が進む割には、国際競争力のある人材を生み出せていない、日本の教育に対する警鐘を鳴らしているといえる。

 中村教授は、受験エリートではない。日本企業の文化を破った「変わった人」のイメージも強かった。だから、司法制度、会社組織、教育、研究環境など、日本社会全体に対してさまざまな「怒り」を示してきたが、それは日本国内であまり理解されなかった。だが、これから教授の発言は「ノーベル賞受賞者」という絶対的な権威を得て、圧倒的な説得力を持つことになるだろう。

 現在、安倍晋三政権はアベノミクス第3の矢「成長戦略」の基本方針を策定し、議論を進めている(第89回を参照のこと)。しかし、官僚、族議員、既得権者の抵抗で、次第に改革が「骨抜き」になっていくのが、日本政治の常だ。中村教授の「怒り」の発言が権威を得て、改革推進の後押しとなってほしいものだ。

 安倍政権は、特許法改正の方針を固め、開催中の臨時国会への法案提出を目指すとしている。現行法では、「社員が職務上の研究で発明した特許を『社員のもの』とする」と規定しているのを、「企業が発明に貢献した社員に報酬を支払う社内ルールを定めることを条件に、『企業のもの』とする」と変更するという。「発明の対価」をめぐる企業の訴訟リスクを減らすのが狙いで、財界が安倍政権に強く働きかけたものだ。