自衛隊出身者初の宇宙飛行士として、大きな話題を呼ぶ油井亀美也氏。自衛隊のテスト・パイロットとして活躍し、飛行隊長の道をほぼ約束されていた実力者である。究極のチームワークが求められる組織で学んだ、リーダーシップとフォロワーシップの真髄とは。(構成/新田匡央)
自衛隊で叩き込まれたチームワークの真髄
――『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』11月号特集「創造性 vs. 生産性」のなかで、若田光一さんが「チームワーク」の重要性を語っています。自衛隊で学んだチームワークが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に移ってからも役立っているのでしょうか。
油井亀美也(以下略) 自衛隊という組織は、リーダーシップとフォロワーシップに基づいて行動することが厳格に求められます。ある局面ではリーダーを担い、ある局面ではフォロワーとして行動しなければいけません。役割が目まぐるしく変わる経験をさせてもらったので、本当に勉強になりました。
自衛隊のなかには「リーダーとは何か」を専門で学ぶ本格的な学校もあります。目黒にある幹部学校で約2ヵ月間、どうやって人を指揮するべきか、どのように人をフォローすべきかという授業を受けるんですよ。その後数年の勤務の後に試験があり、合格すればさらに1年間、リーダーシップについて学ぶ機会が与えられます。
最初の2ヵ月間のコースは全員受講できますが、1年間のコースは試験に合格し、選抜されなければ入れません。つまり、リーダーシップを学ぶに値する適性があるかどうか、筆記試験と面接でふるいにかけられるのです。学校に入ってからもリーダーとしての素養は常に厳格に評価され、その後、隊内でどのような道に進んでいくかが決まってきます。
――その学校での経験のなかで、特に印象深い思い出はありますか。
入学した者は、1年かけて一つのテーマに絞って研究に取り組みます。私は心理を研究することにしました。戦場や災害派遣など、自衛隊が仕事をする環境は非常に苛酷です。そうした状況のなか、人はどういう間違いを犯しやすいのか、どうすればリーダーとして、あるいはフォロワーとして適切な仕事ができるかを学びたかったからです。その研究は思いのほか評価され、代表として発表する機会までいただきました。
ここまでの教育は、自衛隊だからこそできることだと思います。各部署の中核にある多忙な人材を1年間もみっちり、一堂に集めて教育をすることなど、一般企業ではなかなかできることではありません。裏を返せば、リーダーとしてチームを指揮すること、フォロワーとしてチームをサポートすることをそれほどまでに重視している組織だと言えると思います。