歴史認識の“当たり前の言論”は中国人を傷つける?<br />日中に必要な「ズレの認識」と「善玉・悪玉論」排除<br />――日中関係研究所研究員・吉田陽介よしだ・ようすけ
1976年生まれ。99年3月福井県立大学経済学部経済学科卒業。2001年3月まで同大学大学院経済経営学研究科国際経済経営専攻。主に中国経済を研究。同年9月中国人民大学に留学。一年の語学研修を経て、同校国際関係学院課程(科学社会主義と国際共産主義運動専攻)に進学。06年7月卒業。卒業後は日本語教師を経て、10年より日中関係研究所研究員として日中関係、中国政治の研究に従事。
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 日中関係の発展において、知的交流は大変重要である。特に「敏感」といわれている歴史問題や領土問題においては、観点の違いを認めた上で交流を続けていくことが大事であると筆者は考えている。

 一人の日本人として歴史問題にどう向き合っていくか、中国の読者と共に考え、日本人の筆者がどう考えているか知ってもらいたくて筆をとった。旧知の中国の政府系新聞に発表を予定していたが、結果的に掲載は見送られた。

 表向きの理由は「外国人の長い文章を掲載したことはない」ということであったが、内部関係者によれば、実際には「国民感情を傷つける記述があった」という。

 表向きは言論の自由が保証されている中国であるが、実際には情報統制が敷かれていることは周知の事実だ。しかし、いざ実際に検閲され、掲載不可と一方的に言われると、がっかりするが、中国には中国の事情があるため仕方がない。だが、このままこの文章を眠らせるのは忍びないため、ダイヤモンド・オンライン編集部の力を借りて発表させていただくことにした。

 まずは掲載を見送られた文章を以下に示す。ちなみに、原文は筆者が中国語で執筆した。以下はその原文を、筆者が日本語に訳し、掲載している。文中の見出しについてはダイヤモンド・オンライン編集部でつけたものであり、中国語の原文にはない。

某中国メディアが掲載不可とした
歴史認識問題に関する論考を掲載

 7月7日は「七・七事変」(盧溝橋事件)が勃発してから77年目の日であった。中国各地では関連のイベントが開かれ、中国メディアも大きく報じた。一部の日本のマスコミが指摘しているように、今年は77年目であるから、70周年、80周年といった節目ではないが、中国メディアは特集を組んでいたようだ。

 習近平国家主席もイベントに出席し、そこで講話を行った。以下はその講話のなかで出てきたものだ。

「一部の者は鉄の歴史的事実を無視して、戦争で幾千万にものぼる無辜の命が犠牲になったことも無視しており、歴史の潮流に逆らった動きをしている」

 名指しはしなかったものの、明らかに日本批判ととれる発言を行った。李克強首相もドイツのメルケル首相との会談のなかで、歴史に学ぶ必要性を説いた。これも暗に日本を批判しているともいえる。