介護給付の拡大が止まらない。今や10兆円に達し、2025年度には21兆円まで拡大する見通しだ。このままでは制度の維持が困難とみた国は、スタートから16年目の来年、介護保険制度の大改革に乗り出す。中でも高齢者の負担が増えるという意味でインパクトは大きい。

 都内のマンションで一人暮らしをしている末吉倫太郎さん(仮名)は今年88歳。一昨年、重い荷物を持とうとして腰を痛めてからというもの急に体調が悪化、最近になって介護認定を受け、訪問介護サービスを利用している。

 そんな末吉さんは、先日、ケアマネジャーの言葉にあぜんとした。

「来年から介護サービスの自己負担が1割から2割になるらしいですよ」

 月々の収入は年金などで26万円。そこから食費や光熱費などを支払った上で、ホームヘルパーの費用など介護サービスを利用する際の自己負担分を支払うと余裕はない。

「2割というかもしれないが、負担は2倍になる。受けているサービスを減らすしかないかなぁ」

 末吉さんの表情は、それ以降曇ったままだ。

 介護が必要な末吉さんにさらなる心痛を与えた原因は、6月18日に成立した「地域医療・介護総合確保推進法」だ。

 この法律は、2000年に創設された介護保険制度を見直すもの。高齢化が一段と進み、介護保険の利用者が増える中でも制度を維持できるような仕組みを整えようという狙いがある。

 少々、理屈っぽくなって恐縮だが、概要を説明しよう。ポイントは大きく二つある。

 まず一つ目は、介護サービスを受ける際の「自己負担割合」だ。

 これまで自己負担割合は、原則として1割だった。それを、15年8月から一定以上の所得のある人は2割に引き上げる。

 対象となるのは、単身で年間の年金収入が280万円以上の人、夫婦であれば346万円以上の場合。これは所得水準で見た上位20%に相当する。

 また2割負担になるかの判断は、世帯単位ではなく、個人単位で判断される点もこれまでと異なる。

 分かりやすい例を挙げると、夫の年金が300万円で妻が60万円であれば夫は2割で妻は1割。夫婦の年金が共に180万円だった場合は、個人で280万円に達しないので2人とも1割負担となるわけだ。

 二つ目のポイントは、低所得者に対する居住費や食費の補助を見直すというものだ。

 特別養護老人ホーム(特養)などで居住費や食費は自己負担が原則。ただ、住民税を支払わなくてもいいような低所得者には、費用の一部を補助していた。それが今回、預貯金や有価証券を単身で1000万円以上持っている場合には、補助が打ち切られる。

 こうした改革のベースには、介護保険制度の基本路線の大転換がある。これまでは「受けたサービスに応じた負担(応益負担)」の考え方に基づいていた。それを、相対的に負担能力の高い人に負担させる「応能負担」の考え方を一部に導入したというわけだ。

 その結果どうなるか、具体的な自己負担額の代表的な事例をまとめてみた。現役世代にしてみれば、大した額ではないかもしれない。だが、年金に頼っている高齢者にとっては、負担がずしりとのしかかる。

要介護3未満の希望者18万人は
特別養護老人ホームに入れない

 スタートから16年目にして大改革が行われる介護保険制度。その背景には、制度の維持が困難になってきたことがある。

 下をご覧いただきたい。これは介護給付(総費用)と介護報酬の改定率、そして介護保険料(全国平均)の推移を、制度がスタートした2000年度から並べたものだ。

 当初こそ、総費用は3.6兆円だったものの、毎年のように増え続け、14年度はついに10兆円に達している。この間、保険料も上がり続け、今では全国平均で5000円近くにまで上がっている。

 これだけでもすごい金額なのだが、さらに驚くべきは、いわゆる「団塊世代」が全て75歳以上になる25年度の姿だ。

 総費用は21兆円程度にまで増える見込みで、それを支えるために保険料も8200円程度まで上昇するとみられているのだ。

 こうした将来が待ち受ける中、高齢者はさらに追い詰められる。

「一人暮らしは不安。特養に入りたいのだが」

 都内で一人暮らしをしている72歳の田中ツネさん(仮名)は、膝を壊し、最近転んで腰も悪くした。つえなくしては歩くことができず要介護2と判断された。訪問介護サービスを受けているが、認知症とおぼしき症状も出始めており、不安な日々を過ごす。

 そのため田中さんは、特養への入所を希望しているが、15年3月までに決まらなければそれ以降は入所が難しくなる。というのも、特養への新規入居が「要介護3」以上に限定されることになったからだ。

 厚生労働省の調査によると、14年3月時点で特養の待機者は52万4000人。このうち、入居対象から外される「要介護1〜2」の人は全体の34.1%に当たる17万8000人に上る。

 こうした介護難民の大量発生が見込まれる中で、受け入れ側の特養をはじめとする高齢者介護施設には、〝もうけ過ぎ批判〟が集まっている。

 介護費用を削減するどころか、過剰なサービスを高齢者に施し、介護報酬を目いっぱい得た上にため込んでいる施設が少なからず存在するためだ。

 朝から晩まで汗水流し、現場を支えているホームヘルパーや施設職員の待遇は一向に改善しないにもかかわらずだ。

 もちろん全ての施設がそうだと言うつもりはないが、事態は深刻で、国も対策に乗り出す構え。10月8日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会が、介護報酬を6%程度引き下げるよう厚生労働省に求めたのだ。

高齢者というカネのなる木に群がり
おいしい思いをする人たちが跋扈

 『週刊ダイヤモンド』11月8日号は「介護のムダ 高齢者ビジネスのカラクリ」。要介護の認定者数はうなぎ上りで564万人に上り、総費用も10兆円に到達するなど、このまま行けば介護保険制度が崩壊の危機にひんする状況です。

 しかし、その裏では高齢者という"カネのなる木"に群がり、おいしい思いをする人々が跋扈しています。

 そこで今回の特集では、そうした介護施設やサービスの現場を取材。変わる介護保険制度の解説に加え、高齢者ビジネスや介護サービスの実態を詳細にお伝えすることにしました。お読みいただければ分かりますが、まさに「無駄のデパート」と化しています。

 併せて、後悔しない介護施設の選び方もご紹介、チェックリストを作成しましたので、ご本人、そしてご家族の皆さんは活用していただきたいと思います。

 そもそも、介護に使われている金は、40歳以上のあまねく国民から集めたものです。しかも保険料は上がり続けています。若い世代の方々もその使途や、利益の行方について無関心でいられるはずはありません。是非、ご一読ください。

 

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本誌2014年11月8日号

「介護のムダ 高齢者ビジネスのカラクリ」


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