バンコク発ビジネス・生活情報誌『DACO』編集部が、タイ国内で長く愛用されているロングセラー商品を調査・分析。愛されている理由を考えます。
消えゆくものもあれば長く親しまれ続けるものもある。その違いはどこからくるのか――。
商品が作られた当時、50年も使われ続けることを考えて開発された?……とは思えない。
バージョンアップやマイナーチェンジを前提に世に出されたものでも、古いバージョンを良しとするものもある。
某広告代理店の社長から飛行機の中で聞いた話。インスタントラーメンの新商品を世に出すとき、その食品会社では数種類のサンプルを大勢の人に試食してもらい、その結果、2番目に評価の高かったものを市場に投入するそう。
詩人の吉野弘さんの「祝婚歌」という詩の一節。
「二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと
気付いているほうがいい」
ロングセラー商品とは機知と機微を媒介するものかもしれない。じゃ、ま、目についたものを手当たり次第に調べてみようかい。
というわけで、今回から3回にわたって、タイで今も定番としてロングセラーを続ける商品の秘密を考えます。
かき氷器<製造開始年:大正15年(1925年)頃>

文献によるとラマ4世時代(西暦1851~68年)に、氷はシンガポールからタイに船で輸入されており、王族だけが使用を許されていたそうだ。ラマ5世時代の1905年、バンコクのジャルンクルン通りにルート・セータブット氏がタイ国内初の製氷工場(ナムケン・サヤーム社)を建設。1925年頃には人々はかき氷器で削った氷を棒状に固めアイスバーとして食べていたそう。暑い国で手軽に涼をとれるかき氷は、小さな子どもから当時の権力者の心まで掴んだという。今も中華街や地方の食堂、露天などで活躍している。
竜王印のマッチ<製造開始年:昭和5年(1930年)>

ラマ3世時代初頭の1827年にイギリス人化学者ジョン・ウォーカーが発明したマッチは、ラマ4世時代末に宣教師達によって初めてタイにもたらされた(スウェーデン製)。輸入が始まったのはラマ5世時代(1868~1910年)から。主にスウェーデン製と日本製で、パッケージデザインの豊富な日本製は収集家に好まれた。
ラマ7世時代(1925~35年)に日本からの輸入量が減少したため国内生産が始まる。現在も国内で最も認知度の高い竜王印(旧サイアム・マッチ・ファクトリー社、現GIFタイ・マッチ社)のマッチ製造が始まったのは1930年。以来、ムエタイ選手印、銃印など様々なブランド名で国内向けに製造している。そのデザインは製造が開始された80年前から変わっていない。
龍模様の瓶<製造開始年:昭和8年(1933年)>

生活用水としての雨水を溜めるための水瓶。1933年に中国人がラーチャブリー県の小さな工場で生産を始める。経営は軌道に乗り、県内各地に工場が建設された。ラーチャブリー県にこだわった理由は、中国のものと近い良質の赤土(ラテライト)が採れること。
現在も同県内の工場オーナーや陶工は中国系であることから、瓶には中国で吉祥を意味する龍や麒麟の模様が描かれている。かつて模様を描くカオリン(天然粘土)は中国から取り寄せていたが、現在は東部チャンタブリー県と南部スラーターニー県のものを使用している。
次のページ>> タイといえばメコン酒に調味料セット
|
|