最大3兆円超あった公的資金の完済が間近となり、りそなホールディングスが攻めの経営に転じようとしている。背景には、縮小を続けるトップラインへの危機感があった。しかし、11年間続いた安全運転からの転換は一筋縄ではいかなそうだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

 ある朝、りそなホールディングス(HD)の東和浩社長は1本のニュースに目を奪われた。

 10月17日、その日の銀行界のニュースは、前日に全国銀行協会が発表した銀行振り込みの時間延長だった。現在の平日15時までから、夕方以降だけでなく土日祝日も含めて延ばすか検討するという。

 しかし、東社長の視線は同じ日の別のニュースにくぎ付けだった。それは中国の電子商取引最大手、アリババ集団による金融事業の再編だ。アリババは9月29日に、中国政府から認可を得て銀行業への参入を果たしたばかり。そこへ続けざまに、金融事業の推進強化を狙うこの記事が舞い込んだ。

 実はアリババだけでなく、世界中のIT企業が銀行業を侵食しつつある。かねて「IT業界のスピード感は脅威」と語る東社長にとっては、看過できなかったのだ。

 逆に日本の銀行界の動きは遅過ぎると映っただろう。グループ傘下の3銀行間ではあるが、りそなは2015年4月にも、24時間365日振り込みや決済を可能にすることが、10月に明らかになった。

 りそなHDは、03年9月に公的資金約2兆円の注入で救済された“りそなショック”の過去を持つ。その後、東日本旅客鉄道(JR東日本)の副社長だった、故・細谷英二氏をトップに据え、「銀行の常識は世間の非常識」と、銀行の枠を超えた改革を実行してきた。

 細谷氏の後継者である東社長は銀行界で“純粋培養”されたが、改革のDNAを受け継いだ。横並び意識が強い銀行界にあって、東社長は異業種である「ITと小売りの動きを注視」しているのだ。その視界には、下図のような銀行経営者としては異例の世界が広がっている。