ついに世界初の“水素カー”デビュー <br />トヨタの開発担当エンジニアを直撃!<br />――野々部康宏(トヨタ自動車FC技術部FC車両システム設計室長)世界初の市販燃料電池車、トヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)」は年内12月15日から販売をスタートする
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次世代車(エコカー)の歴史に新たな1ページが刻まれた。11月18日、ついにトヨタ自動車が世界初の燃料電池車(FCV)、「MIRAI(ミライ)」の市販日を公表したのだ。年内の12月15日に販売を開始する。水素と酸素の化学反応によって作り出す電気で、モーターを回して走る「ミライ」。当初から開発に携わってきたトヨタのエンジニアに、今の率直な気持ちから、開発秘話までを語ってもらった。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)

――ついに世界初となる市販の燃料電池車(FCV)「ミライ」を発表しました。

ついに世界初の“水素カー”デビュー <br />トヨタの開発担当エンジニアを直撃!<br />――野々部康宏(トヨタ自動車FC技術部FC車両システム設計室長)ののべ・やすひろ/1985年トヨタ自動車入社。入社時より材料技術部にて電池材料や薄膜など機能材料の研究開発に従事した後、92年にトヨタ社内でのFCV開発着手を機にEV(電気自動車)開発部に異動、燃料電池・システムの先行開発を担当。99年にFC技術部が発足、製品化へ向けたFCシステム設計を担当し今日に至る。2007年より現職。
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 1992年から22年間、ずっとFCVに携わっているんですよ。これほど長く関わってきて、 “感動した瞬間”というのが過去に2度ありました。1度目は、2001年に初めてFCVでナンバープレートを国からいただいたとき。研究レベルの自動車としてではありますが、「公道で走っていいよ」という国土交通大臣の“お墨付き”をもらった瞬間でした。

 そして今回が、2度目。今回は、「型式認定」されて市販されます。やっとここまでたどり着いたなという気持ちです。

――これまでの開発過程で、苦しい局面はありましたか?

 もちろん、ずっと同じ分野の開発に携われてきたことは幸せなことだし、会社にも感謝しています。ただ、5~6年前に電気自動車(EV)ブームが来たときには、人的リソースを減らされたこともありました。その時は何が何でも人員を確保するために、社内で奔走しましたね(苦笑)。例えばEVの制御システムのために、(FCVの)人材をEVの部署に割くのではなく、「うちの部署で(EVの制御システム開発の)仕事は全てやりますから」などと主張して、部内に何とか人材を留めたこともありました。

――EVの部署とは、交流は盛んなのですか?

 もともと92年にEV開発部が発足して、FCVはその中の一つの「グループ」に過ぎなかったんです。メンバーは、わずか3~4人からスタートしました。米カリフォルニア州の無公害車(ZEV)規制対策のために、技術部内に分散していたEV開発組織を集結させたときのことです。その後2000年頃にFCVにも本腰を入れようとなって、初めて「部」ができて独立しました。

 今でもEVの人たちとは頻繁に意見交換しています。どちらもモーターで動きますから、作る段階で図面について、あるいは仕様が決まると「デザインレビュー」と称して話したり。オフィスのロケーションも近いんです。本社のEPT(エレクトリックパワートレイン)棟の5階にFC技術部、6階にハイブリッド系(EVを含む)の部署が入っていますから。もっとも、ハイブリッド車は一足先に商品化していることもあって、常に忙しそうだし仕事をお願いするのも大変だな、と遠慮してしまうことはありますが(苦笑)。

ついに世界初の“水素カー”デビュー <br />トヨタの開発担当エンジニアを直撃!<br />――野々部康宏(トヨタ自動車FC技術部FC車両システム設計室長)ナンバープレートが付いた「ミライ」
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――立ち上がりの1年間でミライの販売台数は400台ということですが、今回、車体はFCV専用車です。一方、15年度中に同じくFCVの発売を予定しているホンダは、最初から車体はガソリン車と同じ量産車で出す予定です。今後は、トヨタも量産車の仕様にしていくのですか?

 迷っています。ガソリン車のエンジンルームに燃料電池を乗せられたら、車体が量産車と互換性を持つので、量産効果を見込める。価格を安くできるという点で言えば、そのほうがいいですよね。ただ、FCVはそもそも、鉄の塊、すなわちエンジンを乗せなくていいパワートレイン(動力伝達系)というのがウリです。今後、燃料電池のサイズを小さくして、もっと小さいスペースに置けるようになっていけば、エンジンルーム自体が必要なくなるんです。そうなるとエンジンルームに縛られてきた車のデザインも、フレキシブルに変えられることになります。本来は、そちらの方向性を考えていくものだと思っています。