11月21日、衆議院が解散された。安倍晋三内閣総理大臣は、2015年10月に予定されていた消費税率の10%への再引き上げを17年4月まで1年半延期し、こうした判断を総選挙で国民に問う、としている。

 今回の安倍政権のこのような判断や、これまでの2年間の政策運営は、わが国の今後の経済・財政運営にどのような影響を及ぼす可能性があるのだろうか。それを踏まえたうえで、今後、わが国が政策運営上の優先的な目標として掲げるべき課題は何か、そのために求められる政策運営とはどのようなものかを考えたい。さらに、わたしたち国民は、わが国の経済や財政の先行きについて、今の段階で何を理解し、認識しておくべきかについて、述べることとしたい。

 結論から言えば、安倍政権2年間の財政運営を評価すると、日銀による巨額の国債買い入れを背景に財政規律は緩み、歳出改革は行われず、政府債務残高は増え続けている。消費増税の先送りと日銀頼みの財政運営が続くとすれば、将来世代への悲惨なツケ回しの規模は大きくなるばかりだろう。

デフレからの脱却
“目先”の景気浮揚が最優先

放置されたままの将来世代へのツケ回し <br />政府・日銀の一体化で失われた財政規律<br />――日本総合研究所上席主任研究員 河村小百合<br />かわむら・さゆり
日本総合研究所調査部上席主任研究員。1988年京都大学法学部卒。日本銀行勤務を経て、現職。専門は金融、財政、公共政策。これまでの執筆論文・レポート等はここを参照。公職:財務省国税審議会委員、厚生労働省社会保障審議会委員、内閣官房行革推進会議歳出改革WG構成員、同独立行政法人改革等に関する分科会構成員、住宅金融支援機構事業運営審議委員会委員ほか。

 安倍政権は2012年12月の発足後、「デフレからの脱却」を最優先課題に掲げて、政策運営を行ってきた。白川前総裁の後任の日銀総裁には黒田東彦氏を任命した。その「黒田日銀」は「2%のインフレ目標の達成」のために、「異次元」の「量的・質的金融緩和」へと、金融政策の舵を大きく切り、年間70兆円というペースの国債買い入れを開始した。

 安倍政権は事実上、このような日銀の政策運営を頼みに、大型の補正予算を組んで景気の刺激を図る、拡張的な財政運営を行ってきた。民主党政権時代に三党合意によって決定した消費税率の5%→8%への引き上げは14年4月に実施したものの、歳出削減はほとんど手つかずの状態だ。平成26(2014)年度一般会計予算の社会保障費はついに30兆円の大台に乗せた。税収が50兆円しか見込めないのに、一般会計の歳出規模は96兆円という状態が続いている。このように、「デフレ脱却」を掲げ、目先の景気浮揚を最優先とする政策運営を行う一方、抜本的な歳出・歳入改革の具体策を伴う真の意味での『中期財政計画』は結局策定できず、今に至っている。