マネジメントと社員の二極対立構図を収拾できない日本法人のトンデモ社長がいる一方で、経営陣が現場の知恵と工夫を集約し、それをハシゴに飛躍的発展を遂げた成長企業がある。今回は、二極対立構図の対極にある裁量経営について見てみたい。

「日本法人での今回のリストラは、グローバル本社の指示によるものです。私にとっても寝耳に水でした。ですから、私は何も知りません」――。

 某米国IT企業の日本法人の人事部長時代に、日本法人のリストラクチャリングを実施せざるを得ない状況に直面した。冒頭は、全社員に対する説明会の席上での、日本法人社長の発言である。

 文字にすると意外にスルーして読める発言かもしれないが、この社長の発言の直後から、全社員会議は紛糾した。

「何も知らないはずはないだろう」、「社長としての説明責任がある」――。次々とあがる社員の声に、とうとう社長は、「人事部がやっていることですから、私は何もわかりません」と返答し、会議はさらに混乱を極めた。

「私は何も知りません」と断言する
日本法人社長の統治能力欠如

 今回のリストラが、グローバル本社指示であることも、社長にとって寝耳に水だったことも、事実ではある。しかし、これらのコメントが、「私は何も知りません」「私は何も分かりません」という結語につながる前置きとして使われた途端、無責任発言としか捉えられなくなる。

 多くの社員たちは「社長が何も知らないということは有り得ない」と思っているからだ。だから、「社長の発言は嘘に決まっている」、「誠意をもって社員と対峙していない」と受け取ってしまう。怒り狂った社員たちの突き上げに遭ったあげく、「人事部がやっていることですから、私は何もわかりません」と全社員に返答し、社長自身に統治能力がないことを、自ら宣言してしまうに至る。