本連載の第74回コラムで「ホンダの業績迷走は円高や大洪水の『天災』ではなく、コスト管理の『人災』と判断するこれだけの理由」を掲載した。エアバッグ問題で揺れるホンダやタカタが、今後どうなるかは予断を許さない。

 それとは別に、コスト管理のお題目を掲げながら、典型的な「人災」によって、私たちが収めた税金が食い散らかされた事例を、今回は取り上げる。

 2014年10月30日付の日本経済新聞で、「国立大病院の経営状況を正確に把握する目的で開発、導入された管理会計システム『HOMAS』の運用状況を会計検査院が調べた結果、神戸大や高知大など24の国立大病院で十分に利用されていない」という記事が掲載されていた。

 自分で稼いだカネであれば、どれほど無駄遣いしようと、誰も文句は言わない。しかし、HOMASは、1億8000万円にものぼる、私たちの税金で開発・導入されたものだ。だから、会計検査院の検査対象になる。

 HOMASは、診療科別や検査部門別の原価計算や損益要因分析などを行なうシステムであり、2005年度までに41の大学が導入している。

 ところが、信州大学や神戸大学など11の病院では、導入から10年が経過しても利用されておらず、東北大学など13の病院では、2013年度までにその利用が停止されている。6割近くの病院で利用されていない勘定になる。

 これは明らかに「人災」による税金の無駄使いであり、このような検査結果が公表されては、国民の納税意識が低くなるというものだ。

 HOMASがどのようなシステムなのか、筆者は直接、触れたことはない。しかし、医療機関の管理会計システムが立ち往生する理由は、何となく推測できる。

 国立大学病院は上場企業ではないので、その決算データを入手して、経営分析を行なうことはできない。その代わり、同じ無形の付加価値を生み出す企業として、野村総合研究所(以下、野村総研)、NTTデータ、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、伊藤忠テクノ)の決算データを拝借し、こうした組織で原価計算や管理会計が立ち往生する理由を考えてみたい。

 国立大学病院と野村総研とでは「土俵が異なる」というのは、筆者が取り組む経営分析では通用しない。トヨタ自動車、日立製作所、ソフトバンク、セブン&アイHDなどを横一線に並べて、「異業種格闘技分析」を行なうのが、本連載の特徴でもある。

「医療機関は民間企業と異なり、収益獲得を目的とするものではない」という議論は、ひとまず横に置く。収益や損益を問題にしないのであれば、そもそもHOMASを導入する必要はない。