本当に敵同士か、それとも味方か
“寵愛レース”に走る3人の重臣

 知人が「転職を考えている」と言ってきた。聞けば、転職先は私も知っているオーナー企業で、そこでは長年の間、3人の重臣がオーナーからの寵愛をめぐって争いを繰り広げていた。

 まず1人目が、古くからの参謀で管理部門を担当している「専務1」。2人目がメイン事業で実績のあるやり手の「専務2」。そして、3人目が新しい事業の責任者で比較的若い「常務」だ。あくまで“今のところ”ではあるが、同社に親族が入社する気配はない(*)

 この3人は非常に面白い。互いに争っているように見えて、オーナーからの寵愛を受けそうな新参者が外部からやって来ると、チームを組んで上手に追い出してしまうのだ。特に「どうやって追い出すか」などという話し合いをしている様子もないから、それは“阿吽の呼吸”としか言いようがない。これまでにも何人もの人間が、オーナーに見染められて入社しては、彼らに追い出されてきた。

 彼らのやり方はこうだ。3人がそれぞれ、新参者のネガティブな情報をボディブローのように、かつ、わからないよう少しずつオーナーに吹き込むのである。

「前職では、トップの反対にもかかわらず、ビジネスを企画し大成功させたみたいですよ」
 「リーダーとしての自覚がある方のようで、人を引っ張っていく意識が高いようですよ」
 「入社早々、会社のいろんな問題点をピックアップして、改善案をお考えになっておられるようですよ」

(*)一人を一格落とす(常務)ところは、徳川御三家(水戸は尾張、紀州よりも格下)を参考にしている可能性が高い。同様の組織形態を取る企業は稀にある。以前お話を聞いた別の会社の社長は、2人だと派閥抗争になってしまうが、3人だと安定する。若い人を一つ格落ちさせておくのも年長者の対面が保てるので益が多いとのこと。