「建国」の経緯からもわかるように、「コソボ共和国」の後ろ盾はアメリカとEUだ。そのためコソボは、「イスラーム圏でもっとも親欧米の国」といわれている。実際、大学や図書館などの行政施設には星条旗と欧州旗が高々と掲げられている。

もっとも有名なアルバニア人
コソボではキリスト教徒はどのように扱われているのだろうか。
下はプリシュティナ市街に建築中の立派な教会だ。だがこれは、セルビア人とアルバニア人との和解の象徴というわけではない。
世界じゅうで誰もが知っているアルバニア人がたった一人いる。それがマザー・テレサだ。彼女はオスマン帝国領のコソボ州ユスキュブ(現在のマケドニアのスコピエ)のカトリックの家庭に生まれ、修道女となってからはインド、カルカッタのキリスト教系女学校で地理を教えていたが、36歳のときに神の啓示を受け、もっとも貧しい者のために身を捧げる決意をした。テレサは「愛の神宣教者会」を設立し、カルカッタのスラムにある古いヒンズー寺院を改装して「死を待つ人々の家」というホスピスを開設した。その活動があまりにも有名になったため、現在ではマケドニア、アルバニア、コソボの各地にマザー・テレサを顕彰する施設が次々とつくられている。
このカトリック教会もそのひとつで、「マザー・テレサ大聖堂Mother Teresa Cathedral」と名づけられている。うがった見方をすれば、聖女の名を冠した教会ができれば世界じゅうのカトリック教徒から寄付が集まってくるし、観光客もやってくる。今年9月にはローマ法王がアルバニアを訪問しているから、将来はこのコソボの教会に法王を迎えることも夢ではない。コソボの住民の大半はムスリムだが、カトリックの豪華な教会を街の中心に建てることにはみんな大賛成なのだ。


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