『週刊ダイヤモンド』2015年2月14号の特集は、「そうだったのか! ピケティ『21世紀の資本』」。その中から、解説の名人・池上彰さんが選ぶこの本の最重要ポイントをお送りしましょう。 

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 2014年春、英語版が出版され米国で爆発的に売れました。50万部を超えるベストセラーです。それが日本に伝わってブームになっていますね。

 米国では、レーガン、ブッシュと長く続いた共和党政権の下で、「トリクルダウン」という考え方が信じられてきました。富裕層がより豊かになることによって、その富が滴り落ちるよう、全体に行き渡るというものです。ところが、結局はそうはならなかった。

 11年秋、「ウォール街を占拠せよ」と若者たちが行ったデモを覚えているでしょうか。

 1980年代以降、米国で最も裕福なトップ1%が手にする所得の割合は急上昇しました。大戦後、長らく6〜8%で推移していた全所得に占めるトップ1%比率はとうとう20%程度に達しました。

 その現状を知った職のない若者たちが金融の中心地であるウォール街で「われわれは99%だ」と叫び、抗議活動に出たのです。

 何で、こんなことになってしまったのか──。そんな一般大衆の思いに応え、説明してくれる経済学がこれまでなかった。そこにフランスの経済学者トマ・ピケティさんが『21世紀の資本』を引っ提げて登場し、きちんと説明してくれた。だからこそ、爆発的ヒットとなったのでしょう。

 日本でも、格差が広がっていると感じている人は多いですね。アベノミクスで以前よりは経済指標は良くなっているし、株価も上がっているけれども、一般レベルには恩恵が来ないよ、と思っている人たちが大勢いる。

 ピケティさんは、世界各国の膨大なデータを分析し、「富める者はますます富み、そうでない者との格差が開いていく」ことを資本主義そのものが抱える問題として明らかにしました。それが納得できる答えを求めていた多くの人の心を捉えたのです。

ベストセラー『21世紀の資本』が
700ページと分厚い理由

『週刊ダイヤモンド』2015年2月14号の特集は「そうだったのか! ピケティ『21世紀の資本』」です。

『21世紀の資本』は所得格差社会の筆頭格・米国で50万部のベストセラーとなったのをはじめ、全世界で150万部を突破しました。著者の経済学者トマ・ピケティは一躍、時の人となりました。

 この本は、富みの集中の歴史、格差の拡大のメニズムを、18世紀にさかのぼる詳細なデータを基に解き明かしています。

 アプローチはきわめて丁寧です。裏付けとなるデータは世界で30人超の研究者の協力を得て、15年の歳月をかけて集められたもの。その分析をバルザックやジェーン・オースティンの小説作品などで補いながら進めています。また、慎重にキーワードを定義し、さまざまな経済学説を紹介しながら論考を重ねています。