橘玲の日々刻々 2015年2月10日

すべての宗教は危険である。信じているひとが
ものすごく多いから特権的な優遇を受けているだけ
[橘玲の日々刻々]

 リベラルなひとたちは、彼らが歴史的事実を誤って解釈し、自分に都合のいい歴史観を振りかざしているからだというでしょう。その当否は別として、ここでいいたいのは、この論理には「(歴史認識とはちがい)神を信じるのは崇高な行為である」という暗黙の前提が隠されていることです。

 しかし現実には、テロ行為を行なっているのはイスラームを名乗るグループで、彼らは自分たちこそがムハンマドの正統な後継者・カリフであると宣言しています。メディアには「テロリストとイスラームの教義にはなんの関係もない」との講釈があふれ、テロの原因は宗教ではなく「差別」と「貧困」だとされますが、恵まれない境遇にある多くのひとたちのなかで、なぜクルアーンのジハードに惹かれた若者だけがテロ組織に身を投じ、罪もないひとたちを殺戮するのか、納得のできる説明は聞いたことがありません。

 誤解のないようにいっておくと、これは「イスラームが危険な宗教だ」ということではありません。旧約聖書では、神はユダヤの地に住む異教徒を殺しつくすよう命じています。中世の十字軍や魔女裁判からホロコーストに至るまで、キリスト教の歴史は血塗られています。

 ひとが自らの行為を正当化するのは、正義が自分にあると信じるからです。絶対的な正義を与える神だけが、想像を絶するおぞましい行為を現実のものにすることができます。すなわち、すべての宗教が危険なのです。

 日本でも、ムハンマドの風刺画を掲載した新聞社に対し、ムスリムの抗議行動が行なわれました。今回の事件は宗教というイデオロギーに対する風刺に端を発しているのですから、それを肯定するにせよ批判するにせよ、現物の風刺画を見なければ読者は判断のしようがありません。その意味で、「問題の判断材料を読者に提供する」との新聞社の判断は筋が通っています。

 宗教だけが特権的に優遇されるのはその教えが「よきもの」だからではなく、信じているひとがものすごく多いからです。風刺画の掲載を自主規制したメディアは、要するに、面倒に巻き込まれるのがイヤだっただけです。

 宗教の悪から目を背け、“善男善女”を傷つけることのない「よいこ新聞」のようなジャーナリズムでは、いま世界で起きていることを正しく伝えることはできないでしょう。

参考文献:リチャード・ドーキンス『神は妄想である』

『週刊プレイボーイ』2015年2月2日発売号に掲載

 

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(以上ダイヤモンド社)などがある。
DPM(ダイヤモンド・プレミアム・メールマガジン)にて
橘玲『世の中の仕組みと人生のデザインを配信中!(20日間無料体験中) 


幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版出来!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,500円(+税) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額800円+税
いますぐ試す(20日間無料)

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。