1974年、鹿児島県生まれ。邱永漢氏に師事し、2005年より、チャイニーズドリームを夢見て北京で製パン業を営む荒木氏。今年の中国の正月「春節」は2月18日~24日。この時期が近づくと街は一気に華やぐという。ただ、この一大イベントにも、習近平政権の腐敗撲滅キャンペーンの影響が……。
春節は経営者にとって最悪の月
今年も私にとって、1年でもっとも頭の痛いイベントである「春節」、またの名を「旧正月」がやってきた。中華圏の人々にとっては、春節は大変喜ばしい待ちに待ったイベントであるのだが、残念ながら私には真逆である。街のテンションが上がるにつれ、比例するかのように私の気持ちは重く下がる。
春節を手放しで喜べないのは、何も私だけではない。少なくとも企業経営者にとって、春節は個人的には楽しみであっても、同時に気が重いはずだ。
真っ先に挙げられるのが資金繰りだろう。ほとんどの企業で売上は通常月の60%前後まで落ち込む。一部の観光業や繁華街のレストランなどの例外はあるにしても、一般的な企業の経済活動は停滞する。
しかも、追い打ちをかけるように、この時期に「紅包」といういわゆるボーナスを払う習慣がある。しかも春節期間の休日出勤に関しては、通常の給与に加えさらに3倍の過給金を支払わなければならい。
私の経営している製パン会社も、お客様が春節期間も営業しているので、春節期間中も稼働させなければならない。通常月より売上が60%前後に落ち込んだあげく、人件費は通常月よりも増えるという、経営者にとってはなんとも嬉しくない事態に陥るのである。規模の小さい小売店やレストランは、軒並み春節期間は店を閉める。赤字が確実なのに店を開ける奇特な店主はいない。
この春節期間、ただでさえ資金繰りが厳しく慌ただしいのに、これだけでは済まない。政府機関の動きが最も活発になるのも、残念なことにこの時期なのだ。
予算のノルマがあるのかどうかはわからないが、ふだんあまり見かけない政府機関も含め、抜き打ち検査がグッと増える。工商局、労働局、社会保険局、消防局、税務局、安全科などが、あれが悪いこれが不合格と書類を置いていく。なかにはとんでもない罰金を請求されることもあり、資金的にだけではなく精神的にもボロボロになる。

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