腐敗撲滅キャンペーンでお買い物カードは風前の灯
さて、この政府機関の対応に大活躍するのが「贈り物」である。現金は直接的すぎるしかさむので、人気があるのが有名百貨店や大手スーパーのお買い物カード(クオカードのようなもの)だ。
この時期、どこのスーパーのサービスカウンターも、お買い物カードを購入するお客で賑わっている。領収書も発行され、経費にも計上しやすいので、お互いにとって便利な仕組みだ。10万元(約190万円!)単位でお買い物カードを大人買いしている強者もいる。
このお買い物カードに、一昨年激震が走った。習近平政権の腐敗撲滅キャンペーンに目をつけられ、5000元(約9万円)以上のお買い物カードを購入するには、小切手で支払うか身分証明書を提示しなくてはならなくなったのだ。これによって、お買い物カードと購入者は紐付けされることになり、贈る側にも贈られる側にも足がつくリスクが生じたのである。

この腐敗撲滅キャンペーンでふと頭をよぎったことがひとつある。習近平国家主席のバイブルは古代中国の思想家「韓非」の書物ではないか、という推理だ。習政権はいま、腐敗撲滅キャンペーンで徹底した汚職の取締りを強化しつつ、新たな指針として「法治」を掲げ中央集権化を進めている。
韓非の思想を採用し、ついには中国を統一したのが秦の始皇帝である。故邱永漢先生も、古代中国の数多い思想家の中で、常々好きだと言われていたのがこの韓非と孟子であった。
簡単に言うと、『論語』で有名な性善説を唱えた孔子とは真逆に、性悪説を唱えたのが韓非だ。韓非は自著の中で、「人は法によってのみ治められる」と説いている。信賞必罰、決められた法律を徹底的に世に知らしめ、なお一切の例外を築いてはいけないとしている。まさに習近平主席が掲げている「法治」そのものではないか。また、韓非は質素倹約の徹底が国を治めるのに非常に重要であるとも説いている。
その他にもいま読み返すとピンとくるものが多く、習主席の談話と同じような逸話がいくつも韓非の書物のなかに見つけられる。
例えば『亡国のきざし』には、「贅沢三昧していると国は滅びる」「質素倹約をすすめ、これら贅沢と腐敗を防ぐには君主に権力を集中しなければならない」と記してある。
『五種類の害虫』では、「どんな大木でも内部を害虫に食い荒らされたら、指一本で倒せる」とし、5つのパターンの害虫が記してある。その他にも“君主は人を信じるな、わざわいは愛するものから生じる”や“愛の政治はあり得ぬ”“仁義では勝てない”“殺すか親しむか”など、昨今の中国の政治スキャンダルや政治指針をみていると、恐ろしく韓非の書物の内容と一致するのだ。
興味のある方は、是非とも韓非を一読してほしい。新たな発見があるはずだ。

(文/写真・荒木尊史)
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