先だって、カナダの「D-ウェイブ・システムズ(D-Wave Systems)」が2900万カナダドル(約2300万米ドル)の投資資金を調達した。これは10回目の投資ラウンド。これまで総額1億7400万カナダドル(約1億2380万米ドル)が同社には投入されてきた。

 D-ウェイブ・システムズは、「次世代のインテルになる」と豪語している企業である。創設は1999年。最近よく耳にする「量子コンピュータ」を初めて商用化した会社だ。

 量子コンピュータは、19世紀から20世紀にかけてマックス・プランク、アーウィン・シュロディンガー、アルバート・アインシュタインらが確立した量子力学の原理を情報処理に応用するもの。物理学者のリチャード・ファインマンが、1980年代にその構想を描いた。

量子コンピュータの世界では
“異端児”の存在

 現在われわれが使っているコンピュータは、0(ゼロ)と1いずれかの値を持つビットによって計算を行うが、量子コンピュータでは量子ビットが用いられる。量子ビットは、複数の値を同時に実現する性質を持ち、それによって従来のコンピュータにない規模での並列的な計算が可能になるとされている。いずれ物理的な壁にぶち当たると予想される、「ムーアの法則」を超える技術としても注目を集めているものだ。

 D-ウェイブ・システムズは、研究者らの間でもわずかな数の量子ビットのコンピュータしか作れないとしているところに、16量子ビットのコンピュータが実現できたと発表して耳目を集めた。これが2007年のことだ。そして現在では、500量子ビットが可能になり、来年には1152量子ビットのコンピュータを計画中だと明らかにしている。

 そうした量子コンピュータが実現できたというのならば快挙だが、D-ウェイブ・システムズの技術にはずっと懐疑の目が向けられてきた。正統とされるアプローチとは異なったシステムを用いていることと、処理速度の速さをはっきりと証明できないでいることが理由である。