常連になっても
「ご新規」と呼ばれる不思議

「ご新規3名様!」と案内する店に明日はない何度通っても「ご新規様」と呼ばれるはなぜ?
(c)promolink-Fotolia.com.jpg

 ある和風レストラン。「ご新規3名様ご案内です!」と言われて中に通された。味はそれなりに良かったので、何度か行ってみたが、あいかわらず「ご新規○名様ご案内!」と通される。あるとき店員に、「もう5回目くらいなんですけど、どうして“新規”なんですか?」と聞いてみた。すると、どうもクレーマーと認識されたらしく、まともな答えを得られぬまま、reserved のパネルがおいてある良席に通された。

 その後、業界の方にお聞きして、多くのお店ではオペレーション上の事情から、すでに誰かが来ていて遅れて合流する“お連れ様”と、そうではない“ご新規様”の2種類に分けていることを知った。

「なるほど」とは思うが、それは店都合の分類である。お客様を前にして「あなたの顔なんか知りませんよ(一見さん)」と声高に宣言するのはいかがなものか。“お連れ様”は良いとしても、“ご新規様”でなく普通に“お客様“で十分だろう…。オペレーションの都合などといっても、最初の対応が少し違うくらいだし…などと、ちょっと憤慨しながら、いろんな人に言ってみたが、「そうだ、そうだ」という人は、意外に少ない。「そんな言葉使いを気にする人は秋山さんくらいですよ」と相手にされない。

 しかしながら、私はこだわる。ラベル付けを甘くみてはいけない。言葉は世界をどのように切り取るかの概念分類である。このお店では、最も大事なお客様を、“今日最初に来た人か、遅れて参加する人か、を中心に見ています”、という宣言をしている。接客担当の興味関心は当然そこに集中する。使う言葉は思考を制限するのだ。

 お客様の顔を覚えようなどという意志はまるで持っていないので、顔もろくに見ないし、もちろん覚えない。だから、ご新規様と呼ばれるだけでなく、いつも本当に“新規客扱い”される。お店は、お客様に好きになっていただいて、何度も来ていただけるから利益が上がる。「毎度ありがとうございます」という概念がなく、お客様との繋がりを持ちたくない(と感じさせる)このお店は、今日も駅前で新規客獲得のためのビラ配りをしている。料理は美味しいのにもったいない話だ。