「今まで『敷金2ヵ月、礼金2ヵ月』が当たり前でしたが、それでは決まらないので、大家さんが妥協し始めています」

 都心の不動産仲介会社で、賃貸アパートやマンションなどの物件営業をしている智美さん(仮名・31歳)は、驚きを隠せない様子でこう語る。

 智美さんは大学を卒業した2000年4月から不動産会社で働いているが、今まで賃貸物件の大家に“値引き要求”が通ることはなかったという。

 たとえば、智美さんの会社では、礼金2ヵ月分のうち1ヵ月分は大家に、残り1ヵ月分は会社側に入る仕組みとなっている。大家にとって、礼金の値引きは収入減に直結する一大事だ。

 ところが、今やそんな大家のスタンスが一変しているというのだ。智美さんが内情を詳しく語る。

 「敷金は1ヵ月~1.5ヵ月、礼金も1ヵ月でないと契約が成立しません。今までは家賃交渉もあり得ない話でしたが、月7万円のアパートやマンションに対して1000~2000円の値引きなら、ゴーサインが出ます。オーナー自身がギリギリの状態で、家賃収入がなくなったり、少しでも借り主に家賃を滞納されるとローン返済もできないという事態に陥っているので、“空きが出るよりはマシ”というのがホンネです」

大家も仲介会社も青息吐息
“福澤諭吉”の枚数が急減

 昨年後半に発生したリーマンショック以降、日本の景気は急速に悪化した。不動産市場も大不況の波に飲まれ、販売・賃貸物件共に、客離れによる物件の“価格下落”が止めどなく続いたのだ。

 その間、苦境に陥った不動産会社がバタバタ潰れ、新規物件の開発も急減してしまった。そのため、ここに来て不動産の需給はようやくタイト化し始めており、関係者の間には「底打ち期待」が漂い始めている。

 だが、そんな市場の期待とはうらはらに、不動産業者の現場では、相変わらず予断を許さない苦境が続いているようだ。