危機の最中では当然あるいはやむなしだと支持を得た緊急対策が、最悪期を抜け出すと、余裕と冷静さを取り戻した者たちによって批判が巻き起こる。古今東西同じであり、多様な検証意見が出始めれば、それ自体が危機脱出の証拠とも言える。

 先週当コラムで、サブプライムローン問題は最悪の事態から脱出したと書き、その根拠を証券化商品市場の値動きと米銀の資本調達力の二つの要素で解き明かしたつもりだった。

 ところが、そのコラムが掲載されたまさにその日の6月4日に、米リーマンブラザースが資金繰り難に陥っているという噂が米国市場を駆け巡り、株価が暴落したこともあって、多くの方から危機はまだ去っていないのではないか、という疑問、批判が寄せられた。

 確かに、もう少し丁寧に説明したほうがよかったかもしれない。

 例えば、落ち着き始めた株式市場や債券市場と比べて、短期金融市場はまだ危機モードにある。米ドルのタームプレミアム(3カ月LIBOR-OISスプレッド)はサブプライム問題が火を噴くと、2007年7月の0.1%程度から乱高下しながら上昇、5大中央銀行が協調して大規模な流動性対策を発表した12月には1%を超えた。一度沈静化したが再び上昇、08年5月初めに0.9%近くに達した。6月初めで0.68%くらいなので、危機のピークの1%超からまだ3分の1しか下がっていないのである。

  なぜ、短期金融市場はまだ危機モードなのか。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、「資金デイーラーたちは、自分の銀行にまだ処分できない証券化商品がどれだけあるか、懐の痛み具合を知っている。そこで疑心も邪推も生まれて、提示金利をなかなか下げない」と解説する。