依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。

はじめに

前号までで、メンタルヘルスに関する新潮流とこれからの対策の進め方の方向性が整理され、人事でつくることができる仕組みとして、組織活性化のポイントが示されました。

 本号では、組織の活性化(職場環境改善)の方法を整理し、具体的なヒントにつなげていきますが、その前に、なぜメンタルヘルスのために組織活性化が重要なのか、改めて整理しておきたいと思います。

 従来のメンタルヘルスケアでは「不調者へのケア」が主に行われてきました。そのため、「メンタルヘルスケア」というと、不調の状態を通常の状態へ戻すもの、という認識が広く持たれています。

 しかし、職場の人間関係や仕事の質といった業務関連要因が不調と深くかかわる近年の状況で、この「マイナスをゼロに」という対応だけでは、不調の発生を抑えることは難しいことがわかってきました。

 むしろ必要なのは、理想や目標の達成に向かって個人や組織を活性化することで、「ゼロからプラスの状態」をめざすことです。それが組織のwell-beingを高め、結果的に不調の発生も抑えられるのです。

 具体的な実践方法には、組織向けと個人向けの2つの方向性があります。組織向けのアプローチは、職場環境の根本要因を扱うため、個人向けアプローチよりも効果が大きく持続することが示されています。しかし、組織を活性化していくには個人のリソースも高める必要があるため、最も効果的なのは組織向けと個人向けの双方を組み合わせて強化することといえます。

 そうした職場活性化(職場環境改善)の取り組みの効果は、これまでに数多く報告されています※1、2。健康や生産性に関する指標としては、抑うつ、不安、循環器系疾患のリスクファクター、疾病休業、離職率、パフォーマンスが挙げられ、実践施策の有効性が示されています。また、職業性ストレスに伴う要因として、職場サポート、裁量度、職務満足感、モチベーション、バーンアウトなどの心理的指標に対する効果も認められています。