国際的な職場で蔓延する
「国別のステレオタイプ」の危険

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 どの職場でも、「人に迷惑をかける奴」は好かれない。中にはスティーブ・ジョブズや松下幸之助のように、言っていることがコロコロ変わって周りを振り回すものの「超有能」という迷惑者もいることはいるが、少数だ。人に迷惑かける上に仕事ができない、人間的にも尊敬できない、というような人は、当然職場の雰囲気を悪くするだけだ。さらに、そういう人が正社員で非正規社員に仕事を押し付けたり、管理職で一般社員に迷惑をかけている場合、職場はより不機嫌となる。

 そういう人を観察しているうちに、人は「迷惑者」について、ある種のステレオタイプを持つことになる。例えば、ネットなどで、社会性がなくクレーマーのように振る舞い、決して自分の非を認めない団塊の世代のおじさんをひとくくりに「老害」と称したり、20代前半の若者が社会常識や知識がないことで、やはりひとくくりに「ゆとり」などとレッテルを貼るのも、ステレオタイプである。

 そして、それが国際的な職場になると、国別のステレオタイプが出てくることがある。一つ例を紹介したい。

 私の友人は、大学で遺伝生物学の博士号を取ったのち、某企業の研究所に勤めている。彼のもとには提携先のさまざまな国から研修生として、大学院~研究員レベルの若手研究者がやってきて、基礎的な実験方法などを学んでいく。英語が堪能で、大学教員の経験もある友人は、あるときインドから来た研究生の指導を引き受けることになった。

 その研修生はインドで博士号を取得しており、インドでは一人前の研究員だったという。当然、基礎的なことはできるだろうと友人は思い、彼に簡単なデータ分析を任せた。いくつかのデータ値を足したり引いたりして新しいデータを作り、平均値などの簡単な統計値を出すだけの仕事だった。友人がやれば数時間もあればできる仕事だったが、まずは仕事に慣れてもらうために彼に頼んだ。

 彼はすぐに引き受けたものの。頼んでから3日経ってもできていない。どうなっているのかを聞くと、「忙しい」「そんなに急ぐものなのか」「いつまでにやれとは言われていない」などと言い訳が返ってきた。彼が、この程度の仕事はすぐにできるので、本日中にやってほしいと言うと、「その程度の仕事なら私がやる必要はない」「誰か他の人にやらせればいい」と言い返す。

 友人は嫌な予感を持った。その研究所は、生物の脳神経活動を調べるため様々な研究を行っていた。そのインド人の留学目的は、魚の神経活動を調べるための実験テクニックを学ぶことだったので、友人は、そこまで言うなら、と、本丸の実験の補助をさせてみることにした。