若手全員がうつで退職。結局、プロジェクトチームそのものが消えた――。

 大手IT企業に中途入社したエンジニア、宮本峻さん(仮名・31歳)は、目の当たりにした驚きの事実を語った。隣のチームに配属された彼の同期5人がそろいもそろってメンタルヘルスを悪化させた。うつや自律神経失調症などを病み、2年目には全員いなくなっていたという。

 「そもそもこの部署では、新人がすぐ辞めていくので、何度も採用を繰り返していた」と打ち明ける宮本さん。新人が居つかない職場ではうつも発症しやすい、ということだろうか。「3年で辞める若者」が問題になっているが、若者の“退職”と“うつ”は、ひょっとすると同じ病巣から生まれる別々の症状なのかもしれない。

若手を枯らす「バイキン上司」が繁殖中! 宮本さんの話をさらに聞いてみたところ、チームでは、いわゆるパワハラ上司が幅をきかせていたことがわかった。

 「とんでもない中間管理職が何人かいましたよ。気の弱い部下をいじめ抜いて胃潰瘍にさせたヤツもいました。結局、この部下は抑うつ状態になって退職しましたけど。

 だけど、部下に退職を切り出されたとき、いじめ続けた上司は、なんて言ったと思います?『キミが辞めたら人手がなくなって、プロジェクトに大穴が開くんだよ。会社の損失がいくらになるかわかってる?それでも辞めるっていうなら、会社はキミを訴えるよ。損害賠償金、支払えるの?』。そんなバカな話ってありますか?」

 しかし、問題があるのはこの上司ひとりではなかった。宮本さんはさらに語る。

 「一連のいきさつについて、別の若手がさらに上の役職の人々に直訴したそうです。彼は事の次第を報告し『彼がいじめられているのを、少なくとも我々新人は全員知っていた。同じチームにいるみなさんも当然、わかっていたはずです』と言ったそうです。ところが、上司たちは口を揃えてこう答えました。『そんな話は寝耳に水だ』と」

絆が断ち切られ
バイキンに犯された組織

 現場に無関心な上司や、部下のパワハラを見てみぬふりをする上司。その下には、若手を育成するどころか、鬱憤晴らしの材料にする中間管理職たちがいる。

 こんな具合に上下間の絆が完全に断ち切られた状態では、若者たちが会社に忠誠心を抱くはずはない。宮本さんも「たまに本社に全社員が集合して、決起集会みたいなことをするんですよね。だけど、会社がどんな目標を掲げようが末端には関係ねえよなあ、って思っちゃうんですよ」とぼやいていた。