連載最終回は、人事制度をめぐる質問に答えます。新しい人事制度がなかなかうまく機能しない。よくある状況です。これに対する曽山さんの答えは3つ。「ゴール設定を明確にする」「めんどくさいを排除する」「(制度導入後)初速を毎日見る」というものです。

【質問】
曽山さん、こんにちは。
私たちの会社では、さまざまな人事制度を実施していますが、どれもなかなかうまくいきません。役員の発想によりどんどん新しい制度が生まれるのですが、自分たち人事が良い形にできていないのか、誰が担当しても結果的にうまくいっておらず、社員からは「また人事が何か言ってる」という
声が出てきている状況です。人事メンバーにも諦めムードが出てきており、なんとかこの状況を打破して人事制度の成功確率を
高めたいと思っています。
曽山さんの考えをお聞かせいただけないでしょうか。
(宮城県 T.S)

その制度の目的は
いったい何なのか

 ご質問ありがとうございます。人事制度を成功させることは本当に難しいですよね。私も人事本部長になったときにはいろんな良い切り口の人事制度があったにもかかわらずなかなか成功しておらず、同じような状況にありました。

 今日は人事制度設計におけるよく陥りがちなワナと、そのワナを乗り越えるためのポイントをご紹介します。

人事制度の成功確率を上げるポイントは大きく3つあります。

(1)ゴールなくして成功なし
(2)めんどくさいの排除
(3)初速は毎日見る

 基本的に3つ全部に取り掛かるというよりも、上から順に試してみていただければと思います。

 

(1)ゴールなくして成功なし

 新しい人事制度を成功させられる人事とそうでない人事で、非常に大きく差がついているのがこの「ゴールなくして成功なし」というポイントです。

 その人事制度が成功したときのゴールは何なのかを明示するということなのですが、よく起こりがちなダメなケースをご紹介します。

 それは、「やること自体が目的になっている」ケースです。

 その人事制度を始めることやリリースすることといったことだけが目的になっている場合、当然ながらその先でどのような成果や業績につなげるかのイメージがないのでリリースして終わりです。

 人事部はただでさえ採用や労務の業務など忙しいことが多いので、忙殺される中で新しい人事制度に時間をかけている余裕がないという状況だと、このワナにはまる可能性が高くなります。

 制度としては始めるが、始めることがゴールなので成果は出ない。結果的に失敗となる。

 そういう無駄なことが起きてしまうのです。

 まずは「ゴールが明確になっているのか?」をきちんと確認し、たとえ上司の指示がなかったとしても自分自身でゴールを決めて取り組むことで人事制度の成功確率が大きく変わってきます。

 人事制度における良いゴールというのは、それによって会社にどのようなプラスをもたらすのかが明確で、さらにそのゴール達成イメージが映像でイメージできるものであるとなお良いです。

 たとえば新規事業プロジェクトを経営陣に提案する制度であれば、役員から「良い新規事業がたくさん出たね!」と言われるということや、社員から「うちは新規事業にたくさん取り組む風土がある」と言ってもらえる、ということがゴールの材料となります。

 よくあるダメなゴールは「新規事業を増やす」など。いつも新しい人事制度を人事本部のメンバーに考えてもらう際にはゴールを提案してもらっているのですが、このゴールは私の基準では不合格としています。

 その理由は、まず他責な点。人事が新規事業を決議できるなら良いのですが、新規事業の投資決定は経営陣や新規事業部門が担うことが多いので、自分のコントロール化にありません。

 自分の責任でできることをゴールにしたほうが、がんばりがいもありますし
達成感も自分の手でつかむことができます。