すべての企業が大切にしたいと考える「顧客体験」。しかし、実際に顧客は何を体験しているのだろうか?そのすべてを知ることは難しいが、デジタルをうまく活用すれば、できることは多い。

「顧客体験」とはそもそも何か?
注力すべきポイントを絞ろう

「顧客体験」あるいは「カスタマーエクスペリエンス」という言葉から、皆さんは何をイメージするだろうか?「ビジネス価値をもたらす体験」というように、狭い範囲で考える人も少なくないと思うが、実際には顧客は日々、店舗に行ったり、製品を使ったりして、何がしかを体験している。

極上の顧客体験のためにデジタルをどう活用するか川辺謙介(かわべ・けんすけ) ガートナー ジャパン リサーチ部門 顧客関係管理(CRM)アプリケーション 主席アナリスト

 中でもインパクトのあるのは、とても感動的なポジティブ体験と、逆にウンザリするようなネガティブ体験だろう。この2つは非常に重要だ。ポジティブな体験については、「ちょっといい」では意味がない。「感動」や「感激」を与えられて初めて、顧客は強烈なインパクトを持ち、語り継ぐ。

 一方、ネガティブな体験は、リカバリーがうまくいけば、一気にポジティブな体験に変わる可能性を持つ。たとえば、パソコンが壊れたという、ネガティブな体験をしたとする。しかし、1時間後に修理員がやってきて、あっという間に直してくれたらどうだろうか?顧客は一気に、このパソコンメーカーのファンになることだろう。

 顧客が「わあ!」と驚く体験を用意したり、ネガティブな体験を素早くリカバリーするというのは、顧客体験向上の王道だ。しかし、すべての顧客に全力を尽くすことは無理だ。第一に資金が足りなくなる。もちろん、高級品を扱う企業なら、全顧客にまんべんなく力を注ぐべきだが、一般的な企業は高価値の顧客に絞ったり、ケースを絞る必要がある。

 ケースを絞るとは、たとえばパソコンの故障の場合、「ディスプレイの色がおかしい」程度の不具合なら、即座に修理員を送るようなサービスはコストがかかりすぎる。しかし、「ディスプレイがブラックアウトした」というケースなら、迅速な対応をすべきかもしれない。

 そして、従来の「顧客満足度」よりも、より高精度に「顧客が何を体験しているか」を計測するための有用なツールがデジタルだ。