IS(イスラム国)による日本人人質事件によって、ますます注目を集める中東情勢。今回は、「イスラム教」の聖典コーランには何が書かれているのか、そして、イスラム教徒たちはそれをどのように理解しているのかについて、中東研究家の尚子先生がわかりやすく解説します。
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前回は、「イスラム教」とはなにか、という基本的なことをお話ししました。では、神の言葉が集められたものであるコーランには何が書かれているのでしょうか?
ムハマンドが生きた時代と密接に関係するコーラン
聖典というと、哲学的なことや予言などが書いてあるのではと考えがちです。もちろん、天地創造や来世についての記述もありますが、それだけではなくコーランにはひじょうに具体的な行動規範も書いてあるのです。
例えば、「豚を食べてはいけない」や異教徒に対する「聖戦(ジハード)」、「女性は髪の毛を隠す」、「妻は4人まで」などといった、一見異教徒からすると奇異にみえるイスラムの規則もすべてコーランに書かれているために、イスラム教徒は今日までそれを守っているのです。
「豚肉」については、同じ経典の民であるユダヤ教徒も豚は食しませんが、ムハンマドが生きていた当時、豚によって伝染病が媒介されたために禁じられたという説もあります。「妻が4人まで」というのは、当時、戦争によって寡婦が増えたために、4人を上限としたという説もあります。しかも、すべての妻を平等に扱わなければならないという条件までついています(厳密にすべての妻を平等に扱うのは不可能なので、結局複数妻はもらうべきではないという解釈もあります)。つまりコーランは、ムハンマドが生きた時代背景に密接な関係があるのです。
ジハードについては「聖戦」と通常訳しますが、本来の意味は奮闘とか努力という意味です。人間は誘惑にすぐに負けてしまう弱い生き物であるために、神の説いた規範から逸脱しないように奮闘・努力するという意味合いで、こうした内面的な戦いもジハードといいます。
現在のように、異教徒に対する防衛・攻撃だけが強調されているのは、むしろ現代の人々の解釈であり、現代という時代背景がこうした解釈を生んでいるといえるでしょう。
また、「女性の髪の毛を隠す」については、コーランでは「外部に出ている部分は仕方がないが、その他の美しい所は人に見せぬよう。胸には蔽いを被せるよう」と述べられており、その隠す部分については、後の人々の解釈によって、「ヘジャブ(スカーフ)」のように髪の毛だけなのか、アフガニスタンの「ニカーブ」やイランの「チャドル」のように、目以外の頭の先から足の先までを隠すのかが変わっています。

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