中国の統計によれば、この春節、中国人旅行客の訪日がもたらした消費額は10日間で60億元(約1125億円)にのぼった。4月の清明節の休暇では70億元だと言われている。この「爆買い」による経済効果は日本企業を潤す反面、国民生活に大きな影響をもたらしている。

「爆買い」は観光地や免税品店で起こる現象のみとは限らない。近年は、私たちの生活圏にも中国人観光客が訪れるようになり、「爆買い」の実態を身近で目にする機会も増えた。筆者もそのうちのひとりである。

 3月、都内のドラッグストアに中年の女性が現れた。歯ブラシが陳列されている棚の前に立つと、目の前にぶら下がっている歯ブラシを右手でおもむろに鷲掴みにした。その右手が何度か往復すると、左腕で抱える(なぜかカゴは持たない)その歯ブラシの束はみるみる大きくなった。

 女性が狙っていたのはライオン製の「ビトウィーン」、特価78円の商品だ。近年、都内でも100円を切る歯ブラシは珍しくなった。安倍政権が8%の消費税を導入し、また円高を進行させたこともあり、「安くていい品」の流通は減る傾向にあるなかで、地元民にとってこの目玉商品は魅力的なものだった。

 だが、特価品の歯ブラシは、筆者の目の前であっと言う間に姿を消した。

「日本から持っていけば
いい商売になる」

 さすがにこれには驚いた。相手は知らずの中国人客だったが、思わず「そんなに買って転売でもするの?」と声をかけた。すると、「家族で使う」と答える。

 しかし、この女性が買った歯ブラシの束は、向こう数年分のストックにも相当する。「家族向けの買い物」と説明するにはあまりに大量で不自然だ。

 しばらくよもやま話をしていると、女性はこう打ち明けた。

「中国では日本の歯ブラシがよく売れている。現地での販売価格は高い。日本から持っていけばいい商売になる」