ベンチャーなんて、寝ないで仕事しなければ、競合に負けてしまいます。ですから社員もみんな営業ノルマを達成するために必死で毎日終電まで働いていました。私は、終電まで働かない社員なんていらないと本気で思っていたのです。

 私の考えが変わったのは、35歳の時でした。私が頼りにしていた管理職が全員退職してしまい、古い社員がひとりもいなくなってしまったのです。営業の会社ですから、離職は当たり前。いつも誰か辞めている会社でした。でも、仕事を任せられる管理職が全員退職してしまったことは、本当にショックでした。どんなに一緒に頑張ってきても将来が見えないこの働き方では、社員は誰も残らないのです。

 社員が深夜まで働くことで、一時的には売上は上がります。しかし、この働き方では、社員が疲弊してしまい、せっかく仕事ができるようになっても、将来が見えず、結局は退職してしまうのです。

 育っては辞め、育っては辞めをずっと繰り返してきたこの会社でしたが、管理職が全員やめてしまったことで、私自身もこの働き方にもう限界が来ていました……。

 それと同時に、当時35歳だった私はこのままでは私自身も結婚も出産もできないことに気がついたのです。

 この広告代理店では、残業できない人間は、取締役としてバリバリ働いていた私ですら不要でした。私はこの仕事が大好きでした。自分の提案がお客様に喜んでいただける。お客様との信頼関係を築ける。部下と一緒に達成感を感じられる。毎日死ぬほど忙しいけど、死ぬほどやりがいを感じていました。

 こんなにこの仕事が好きでたまらないのに、出産して、残業できなくなったら辞めるしかないのです。そう思うと、結婚や出産をためらってしまいます。

 この時の経験から、私は、いつか自分で起業したら絶対に「女性が働きやすい会社にしよう」と決めました。具体的には女性が結婚しても安心して働けて、しかも何人でも子どもが産める会社」です。