民主党政権が誕生して、1カ月が経過した。一般に、新政権発足後100日間はハネムーン期間と言われているので、拙速な評価は差し控えたいが、政権が「変わる」ということが政治にどれだけのダイナミズムをもたらすかということについては、既に市民が十分実感したのではないかと思われる。

 新政権の取り組みで個人的に注目している点が3つある。

「言葉の重要性」を根本に据える
民主党の意気込み

出口治明
出口治明ライフネット生命社長

 1つは、マニフェストを実直に実行しようとしている点である。これまでは、政治の世界における「公約」は、選挙目当てのものが大半であった。政治家だけではなく有権者の側でも、選挙が終わればほとんどその中身を忘れてしまう、それが公約というものの実態だった。

 現に政治評論家の中にも、民主党は安定多数を獲得したのだから、財源問題にも留意してマニフェストに捉われず柔軟な政策遂行に努めて欲しい、という注文を出す人が多い。しかし、新政権は、マニフェストをいわば国民の指令書として愚直に実行に移そうとしている。これは、朝令暮改が常態であったこれまでのわが国の政治の在り方から考えれば、かなり注目すべき動きではないか。すなわち、政治の世界に、「言葉の重要性」、言い換えれば、言ったことは必ず実行する、という先進国ではごく普通の市民政治の常識を持ち込もうとしているように見受けられるのである。

 もちろん、子ども手当てなど、マニフェストを忠実に実行しようとすれば、たちまち財源の壁に突き当たることは請け合いである。しかし、実現の困難性等をひとまず置いて、何よりも最優先で言葉の重要性を、政治の世界の根本に据えようとする意気込みは、もっと注目されてしかるべきであろう。

記者クラブのオープン化によって
政治言論は近代化・合理化へ

 2つ目は、いわゆる記者クラブのオープン化に熱心であることだ。この点では、特に岡田外相が率いる外務省が先んじている。9月18日に公表された外務省の「大臣会見に関する基本的な方針について」を読む限り、フリーランスの人間であっても、これからは自由に外相と質疑応答が出来ることになる。これは、少し長い目で見れば、市民の知る権利と行政の説明責任を担保するだけにはとどまらない大きな波及効果をもたらすのではないか。

 わが国のメディアの世界では、いわゆる評論家を自称する人々が幅を利かせており、外交評論家も結構な数にのぼる。これまでは、自称評論家は、独断・偏見と独自の内外政府高官の情報ルート(それが本当に政府高官に繋がるものかどうかは誰にも検証できないが)を基に、さまざまな言説をものしてきた。