橘玲の世界投資見聞録 2015年5月21日

ジンバブエ、ムガベ大統領が“モンスター”になった理由とは?
[橘玲の世界投資見聞録]

ムガベが20年後に“モンスター”になった理由とは?

 独立直後のムガベは人種の融和を説き、黒人に自制を求める、ネルソン・マンデラと同じような穏健で賢明な黒人指導者だった。そんな彼がなぜ、20年後には“モンスター”になってしまったのか。

 これにはもちろんさまざまな要因が考えられるだろうが、小倉氏は前掲書で、冷戦の終焉と97年のブレア労働党政権の登場を指摘している。

 ニューレーバーを旗印に地すべり的な大勝を収めた労働党政権は、外交に「倫理的要素」を持ち込み、人道支援のためには他国への軍事的介入をも辞さないと明言した。イギリスの、そして西欧の民主主義と人道思想を広めることは道義的責任であるとするブレアは、9.11同時多発テロによってこの考えをさらに強固にし、テロとの戦いとアフリカの開発にのめりこむことになる。

 それに対してムガベは、2002年にヨハネスブルグで開催された開発に関する世界サミットで次のようにブレアを批判した。

 「我々はヨーロッパ人ではない。ヨーロッパのわずか1インチ平方の土地でさえ要求したことはない。だからブレアよ、イングランドをくれてやるから、我がシンバブウェは私のものだ」

 このサミットでムガベは喝采を博し、ブレアには野次が投げかけられた。これをきっかけにイギリスなど欧米のメディアはジンバブエの土地改革を「土地強奪」、支配政党を「腐敗した残忍な独裁」と非難するようになった。

 だが真の問題は、ブレア政権が植民地支配を過去のこととして扱おうとしたことにあると小倉氏は述べる。「今日のジンバブウェの状況を過去と切り離す姿勢と、ジンバブウェ問題をムガベ問題に矮小化する態度とは大いに関連している」。すなわち、植民地問題の「責任」を否認するために、イギリス(ブレア政権)にはムガベという「独裁者」が必要だったのだ。こうして、「人格の破綻したモンスター」というイメージが意図的につくられていく。

 もちろんこれは、ムガベや政権幹部たちが清廉潔白だということではない。だが同じように腐敗している権力者はアフリカ諸国には(残念ながら)いくらでもいる。そのなかでなぜ、ジンバブエだけが極端な経済制裁の対象になるのだろうか。

 それは、ムガベが植民地問題の過去を清算するために白人の土地を接収したからだ。黒人同士の土地争いであれば、彼らはなんの関心も持たなかっただろう――これが、ジンバブエから欧米に突きつけられている「歴史の責任」なのだ。

 
 
<橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(以上ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、政治体制、経済、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ最新刊 『橘玲の中国私論』が発売中。
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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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