複写機とカメラという中核事業の成長が止まり、新規事業の育成が急務とされてきたキヤノン。スウェーデンの監視カメラ企業の買収は市場の期待への“回答”となるのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

 5月5日、キヤノンにとっては創業以来最大の大型買収が完了した。約2800億円を費やし、スウェーデンの監視カメラ企業、アクシスの発行済み株式総数の84.83%を取得したのだ。2009年の蘭オセの買収額約980億円を上回る最高額。2月にTOB(株式公開買い付け)を発表してから、株の取得に動いた投資ファンドの持ち分がまだ残っているが、当初の通り全株を取得する前提だと、15年度、営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)と投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)の合計であるフリーキャッシュフロー(FCF)は、400億円のマイナスになる。キヤノンにとっては1997年度以来、実に18年ぶりのことである。

「私は米国駐在が長かったから、キャッシュフロー経営が染み付いている」。03年、御手洗冨士夫・キヤノン会長兼社長は週刊ダイヤモンドの取材に応え、当時の“優良企業”キヤノンの強さをこう表現した。

 キャッシュフロー経営とは、損益計算書上の利益の追求のみならず、現金創出に重きを置いた経営管理を進めること。例えば、セル生産方式を全工場に導入し、ベルトコンベヤーでの大量生産から少人数での効率生産に切り替え、人件費を削減するとともに、ラインでの仕掛かり品を削減することなどで、7年間の累計で3000億円以上のキャッシュを創出した。それらの結果、かつて有利子負債比率が33%もあったキヤノンは実質無借金企業に変わった。