無声映画のような映像で綴られていく、亡き妻との思い出──幼い頃の出会い、お転婆娘だった彼女と2人で夢見た大冒険、若き日の楽しい結婚生活。そして仲良く歳をとり、いつしか、自分を引っぱり続けてくれた妻が、もはや自力で坂を上がることすらままならなくなってしまい……。アニメーション映画『カールじいさんの空飛ぶ家』の冒頭で映し出される約10分は、映画史に残る美しい映像詩と言えるだろう。

ボブ・ピーターソン
ボブ・ピーターソン(Bob Peterson)……『カールじいさんの空飛ぶ家』共同監督。1961年生まれ。『モンスターズ・インク』ではストーリー・スーパーバイザーを担当。『ファインディング・ニモ』で共同脚本を担当し、アカデミー賞脚本賞にノミネートされた。

 今夏、全米で大ヒットを記録したこの作品は、『トイ・ストーリー』シリーズや『ファインディング・ニモ』などで知られるピクサーの最新作。主人公は、78歳のカールじいさん。孤独を愛する、独り暮らしの頑固者が、亡き妻との思い出が詰まった家を立ち退かされそうになるところから物語が始まる。そしてカールじいさんは、膨大な数の風船をつけて家を舞い上がらせ、妻と約束しながらも果たせなかった大冒険へと旅立つのだ。

 まさに大人のためのアニメーションと言っても過言ではないこの作品を作り上げた、共同監督のボブ・ピーターソンに話を聞いた。

──この作品は、2009年のカンヌ国際映画祭で、アニメ映画としては初となるオープニング作品に選ばれました。また全米では大ヒットを記録し、各方面で高く評価されているわけですが、その理由は何だと思いますか?

ピーターソン:今はメディアの種類も多く、情報が氾濫していて、生活のペースも非常に早くなっています。そんななかで、みんなが、本当に真実味のある映画、感動できる物語を探していたのだと思います。