ハゲタカファンド――。1990年代後半の金融危機以降、続々と日本に舞い降り、わが国を代表する金融機関や事業会社を傘下に収めて行った彼らの名を、聞いたことがない人はいないだろう。

 彼らは、一般的に「バイ・アウト・ファンド」に分類されることが多い投資ファンドである。投資家から集めた巨額の資金を元手に、経営難に陥った割安で優良な企業にTOB(株式公開買い付け)を仕掛け大株主として買収し、経営陣の派遣などを通じて、経営に深く関与するのが特徴だ。

 その目的は、「企業価値向上」を旗印に徹底した事業改革を行ない、最後は企業を売却して高い利回りを得ることに他ならない。

 日本人にとっては、あまりにもドラスティックに映るその投資・経営手法は、しばしば旧来の経営陣との激しい衝突を招いた。だからこそ、日本人は脅威の念を込めて、彼らを「ハゲタカ」と呼んだのである。

 そんな世相を反映してベストセラーになったのが、真山仁氏の経済小説「ハゲタカ」(2004年、ダイヤモンド社刊)とその続編「バイアウト」(06年、講談社刊)だ。

 元銀行員の鷲津政彦が、投資ファンドのファンドマネジャーに転身して、次々と日本企業を買収する姿を臨場感たっぷりに描写し、「ハゲタカ」は一躍流行語となった。

 07年には、同小説を基にしたテレビ版の「ハゲタカ」(NHK、全6回)が放映されて好評を博し、来る6月6日からはついに待望の映画版「ハゲタカ」(全国東宝系)の上映が始まる。

 では、果たして投資ファンドは、小説や映画のイメージ通り、本当に単なる「招かれざる濫用的買収者」なのだろうか?

 これまでの経緯を見れば、そのような見方は一面では正しいのかもしれない。しかし、「ファンド」という言葉もすでに市民権を得ているため、名前を聞いただけで「すわ、乗っ取りか!?」と短絡的に思い込む企業経営者は、以前ほど多くないだろう。

 世界を見渡せば、今では経営改革を目指して積極的に投資ファンドを受け入れている企業さえ少なくない。投資ファンドの活動の場は、ますます拡大しているのが実情なのだ。

 なかでも特に注目すべきトレンドは、これまで欧米系投資ファンドの陰に隠れていた「新興国の投資ファンド」が、ここに来て急速に存在感を強めていることだ。