連載第1回目で、ブランドは人の気持の中に存在するもので、本質は価値がもたらす「好感」だとお話ししました。

 このことについて、ちょっと疑問を感じる人もいるでしょう。「エ、でも、世の中どこに行ってもブランドと呼ばれる製品やサービスだらけじゃないですか」とか「ブランドの看板やロゴタイプは、街の真ん中で眺めれば無数にあるんですけど」とか。確かにそうですね。

「メルセデスベンツを見た」?

 わかりやすい例で考えてみましょう。

 外を眺めていたら、メルセデスベンツの新車がスムーズに走っていったとします。今、僕はメルセデスベンツを見ました。メルセデスは、誰もが知っている高級車ブランドのひとつです。ブランドを象徴するスリーポインテッドスターがボンネットの上に輝いています。

 今、僕は「メルセデスベンツを見た」と言いましたが、これを正確に言いなおせば「僕はメルセデスベンツというブランドが生んだ新製品のひとつを見た」となります。

 メルセデスベンツが所有している価値を見たわけではないのです。メルセデスベンツは「ドイツのクルマで走行性能に優れ、故障が少なく、安全で、快適です。それゆえに高価なので、社会的に地位が高く、お金をたくさん持っている人が乗っている、世界的な高級車」です。

 この言い方は100点満点ではないにせよ、70点くらいは、その価値を言い当てていると思います。100人の人がいるとして、ほぼみなさんが、まちがってはいないなと賛成してくれるでしょう。