日中韓和解のカギは、互いの「自己評価」を認め合うことスティーブン・ナギ
国際基督教大学准教授。1971年カナダ生まれ。2004年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程(国際関係)修了、2009年同博士課程修了。2007年早稲田大学アジア太平洋研究科のリサーチ・アソシエイト、2009年香港中文大学日本研究学科助教授に就任、2014年より現職。早稲田大学「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」シニアフェロー、香港中文大学香港アジア太平洋研究所国際問題研究センター研究員を兼任。研究テーマは北東アジアの国際関係、日中関係、アジアの地域統合及び地域主義、非伝統的安全保障、人間安全保障、移民及び入国管理政策。

 第2次世界大戦は、日本、中国、韓国に異なる出発点、異なる意味を与えた。また各国それぞれのアイデンティティ、そして現代史にも長期的な影響を及ぼしている。筆者は、3国それぞれに自己理解があり、またそれを相互に理解し合っていないことが、日本、中国、韓国の間の和解を妨げる要因になっていると考える。

 まず日本の自己理解から見てみよう。多くの日本人にとって第2次世界大戦とは、遅くとも1931年の奉天/満州事変に始まり、1945年の広島と長崎への原爆投下に至る14年間に相当する。ほとんどの日本人は、自分たち自身を原爆、軍事政権、破壊と苦難をもたらした残忍な紛争の「犠牲者」として見ており、その被害者意識は今日も持続している。第2次世界大戦における日本の敗戦は、過去の帝国主義・軍国主義を思い起こさせると同時に、日本人のマジョリティが罪と悔悟、被害者心理を抱く源泉ともなっている。

 戦争経験と戦後の平和憲法は、日本人の心に反軍国的規範と平和主義を深く植え付け、日本人のマジョリティの自己理解とアイデンティティに影響を与えている。なお、この自己理解のプロセスは非常に選択的であったことを、ここに強調しておくことは有益だろう。

 中国での紛争や朝鮮半島の併合、真珠湾攻撃は、戦後日本の近代化と現代的なアイデンティティ構築に、中心的役割を果たしてはいない。代わりに明治維新と近代化、戦後の国家再建、奇跡的な経済成長、世界で最も先進的な国のひとつとして地位が向上したことなどは、現代日本の自己理解とアイデンティティのルーツといえる重要な経験と位置づけられる。

歴史的屈辱は韓国・中国の
自己理解に欠かせない要因

 韓国のアイデンティティは第一に、日本による植民地化、朝鮮戦争と、その後の国家分割の経験によって構成されている。1910年に始まる日本による植民地経験が、領土だけでなく文化や言語、伝統などにまで及んだことが、彼らの日本を責める姿勢を特徴づけた。植民地支配下では慣習を守れず、独自の言語も使えず、日本の流儀を受け入れざるをえなかったことを、多くの韓国人が精神的なレイプであり、文化侵犯という深刻な問題として捉え続けている。

 この侵犯の意味をさらに深めるのが慰安婦問題で、それは植民地時代の経験から来る痛みと、韓国人の誇りについた傷跡が、未だ癒えずに今日の政治情勢においても継続していることを示し、また物理的な示威運動へとつながっている。にもかかわらず、なお今日、日本においては慰安婦が強制連行されたかどうかを検証する動きが持ち上がっている。