アラブ 2015年7月6日

教えて! 尚子先生
なぜ貧困がイスラム原理主義を生むのですか?【中東・イスラム初級講座・第25回】

ムスリム同胞団は「困りごとよろず相談所」

 ムスリム同胞団は1928年にエジプトで、ハッサン・アル=バンナーという教師によって始められましたが、現在ではヨルダンやパレスチナでもその支部が独自の活動を行なっています。パレスチナでムスリム同胞団を母体として発展したのが、現在、政権についているハマスです。

 エジプトでの調査によれば、ムスリム同胞団が運営する病院は、町の小さな診療所のレベルから、CTスキャンや人工透析器などの医療機器を有する大規模な病院まで存在しており、通常は有料ですが、貧者には無料で医療サービスが受けられるようになっていた(有料の場合も私立病院の10分の1程度の医療費)と報告されています(ただし、現政権はムスリム同胞団の活動を禁止しているため、現在どの程度の活動が可能となっているのかは不明です)。

 貧者救済または貧困対策というと、どうしても農村部やへき地のいわゆる絶対的貧困(1日1.25米ドル以下で暮す人々。世界銀行が定めた貧困水準)や、「スラム」のような地区だけを想定してしまいがちです。けれども「都市の貧困」とか「相対的貧困」など、貧困にはさまざまなレベルがあります。ムスリム同胞団は、こうした都市の中間層レベルをも巻き込んだ、まるで「お困りごとよろず相談所」とも呼べるような細やかな支援を行なっていました。

ヨルダンでは貧困対策よりも相互扶助の役割

 ヨルダンの場合、ムスリム同胞団はモスクのネットワークを使うことは禁じられています。おそらく、政府に脅威を与える勢力になりかねないと判断したために、こうした措置が取られているのですが、そのかわりムスリム同胞団には慈善団体としての活動は許可されていました。そのため彼らは、いくつもの慈善団体を作り、エジプトと同じように学校や病院の運営などを行なっていました。ですが、それはいわゆる「貧困対策」のイメージの範疇を超えていました。

 ヨルダンでの調査によれば、学校についてはどうやら「貧困層」を対象としているわけでありませんでした。貧しい家庭の子どもには奨学金の給付も行なっていますが、実際にムスリム同胞団が提供している学校は、授業料から察すると中間層レベルの通う、イスラム的教育カリキュラムつきの私立学校なのです。

 想像しづらいかもしれませんが、ヨルダンでも受験戦争は厳しく、かなりの学歴社会です。子どもたちをより良い大学に行かせたい親たちが、子どもたちをできるだけ評判のよい高校や中学に行かせるというのは、まったく日本と同じです。ムスリム同胞団系の学校は、インターナショナルスクールなどの私立校よりはかなり授業料は低いのですが、質の良い教育(大学受験の結果もよいのでしょう)との評判から人気が高く、授業料は平均的な私立学校よりも高めになっているのです。

 そして、そこで教鞭をとっているのは同胞団系の教員で、この教員の給与も公立学校よりは高めに設定されていたのです。つまり、ヨルダンの場合は、貧困層対策というより、むしろムスリム同胞団のメンバーや支持者たちが、次世代において中間層の中で上昇できるよう、もしくはその層から下落しないようにする相互扶助の役割を果たしていました。

観光客を待つ=パルミラ, シリア【撮影/安田匡範】

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