カーター政権時のモンデール副大統領以来、民主党、共和党の別を問わず、副大統領の権限は一貫して強化されてきた。その意味で、共和党のペイリン副大統領候補ではおよそ役者不足であり、時代の流れに逆行しているとデラウェア大学のパイカ教授は指摘する。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

ジョゼフ・A.パイカ(Joseph A Pika)
デラウェア大学教授 ジョゼフ・A.パイカ

 「大統領としての判断力」を世間に示すまたとない2つの機会で、最近共和党候補のマケインはリスキーな一面を露呈した。

 ひとつは、金融業界救済の議会折衝に際して、選挙活動を中断しようと民主党のオバマ陣営に持ちかけたこと。マケイン自身は熱意を演出したかったのだろうが、結果的に単なる安定性を欠く指導者という印象だけを与えてしまった。もうひとつは、いわずもがな、ペイリン・アラスカ州知事を副大統領候補に選んだことだ。

 大統領候補が副大統領候補を指名する際、そこには大きく3つの目的がある。第1に選挙で勝てるようにしてくれること。第2に、大統領になった暁に、その経験や知識で任務を助けてくれること。第3に、大統領が不慮の事故に見舞われた際、代役が務まることだ。

 ここ最近は、第一の目的は薄れ、大統領の仕事を補助してくれる相手が選ばれてきた。クリントンとゴアは、見事な補完関係にあったし、現在のブッシュとチェイニーに至っては、はたしてどちらがボスなのか分からないほどだ。ところが、ペイリンは、明らかにマケインを大統領本選で勝たせるためだけの駒なのである。

 歴史をさらに振り返れば、大統領と副大統領との関係はこれまで大きな変化のさなかにあった。その変化は特にカーター大統領とモンデール副大統領の頃から顕在化したのだが、一言で言えば、副大統領の権限が拡大し、政策決定に際してより重要な役割を担うようになったことだ。

 クエールを唯一の例外として、H・W・ブッシュ、ゴア、チェイニーらはみな、副大統領として前任者より存在感を増し、ことにチェイニーが持つ権限は米国史上最大のものだと、大統領研究者らの意見は一致している。