ベトナム 2015年9月8日

日本とベトナムの音楽の架け橋
チャン・ヴァン・ケー博士を偲ぶ

宮廷音楽の復興の陰には日本の多大な援助があった

 ケー博士の資料を読み進めるうちに、いろいろと興味深いことが分かってきた。ベトナム最後の王朝であるグエン朝が1945年に滅んだ後、宮廷楽団は解散となり、宮廷音楽は消滅の危機に瀕していた。それが復興するに際しては、日本の大きな協力があったのである。

 きっかけとなったのは、1994年にフエで開催されたユネスコの会議。そこでベトナムの宮廷音楽の保存の重要性が議題にあげられた。これを受け研究に乗り出したのが、音楽学を専門とするお茶の水女子大学の徳丸吉彦教授、大阪大学の山口修教授など、日本の研究家たちである。

 トヨタ財団も後援に入り、同1994年、フエ芸術大学の中に雅楽科が設立される。生き残っていた元楽士達が、宮廷音楽再生のため、高齢をおして教えに来た。そして、卒業生を中心に編成された宮廷音楽団が演奏を始めたのは1998年のことである。

 そして、フエの宮廷音楽をユネスコに紹介したのが、他ならぬチャン・ヴァン・ケー博士だったのだ。

 さらにケー博士の論文には、フエの宮廷音楽と、日本の雅楽や沖縄の伝統音楽との関連性についても言及されていた。音楽が西から東へ伝わった際にベトナムは中継地のひとつで、その終着点が日本であったというのだ。沖縄の伝統音楽の中には、フエの宮廷音楽と、まったく同一のメロディまであるという。

フエの王宮内にある劇場で演奏中の宮廷楽団。いろんな編成があり、これは比較的小編成のもの。定期的に上演しており、もちろん観光客も鑑賞できる【撮影/中安昭人/2004年2月】

伝統は、宮廷楽士たちの家庭の中で受け継がれてきた

 こうして博士の論文をはじめとする資料を手に、私がフエに向かったのは翌2004年2月のこと。2月27日から3月1日までの4日間、朝から晩まで宮廷音楽団に同行し、いわゆる密着取材をした。

 私が注目したのは、ベトナム最後の皇帝であるバオダイ帝の前で演奏したことがある宮廷音楽家が3人、ご存命であるという点だ。既に90歳前後の高齢だが、現役で後進の指導にあたっているという。

 縁起でもない話だが、「今のうちに取材しておかないと、亡くなられたら話が聞けない」と思った。実際、そのうちのお1人は「体調が優れない」とのことで、取材期間中、一度もお目にかかることがかなわなかった。

 残り2人のうちの1人、ティーさんの話を聞いて私は驚いた。ティーさんの息子さん、そしてお孫さんまで、同じ宮廷楽団で音楽家として働いている、というのである。ティーさんのお父さんも宮廷楽士。つまり分かっているだけでも4代にわたって宮廷音楽を演奏しているのである。

 しかも話を聞いてみると、一度は歴史の表舞台から消えてしまった宮廷音楽が今も生き残り続けているのは、こういう楽士一家の家庭の中で、ひっそりと受け継がれてきたからだという。ベトナムらしい話である。私はこれを核にして特集をまとめることにした。

 こうして『ベトナムスケッチ』2004年4月号の巻頭特集「グエン朝の音楽家たち」を作ることができた。

ティーさんのご自宅で。左の男性が息子さん、右がお孫さん。3人の写真を撮らせてもらおうと思ったら「縁起が悪いので」と、親戚の女の子が加わった【撮影/中安昭人/2004年2月】

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