通勤電車に乗れない。1人では不安。上司にモノが言えず、間に家族が入らないと話ができない――様々な事情から、「会社に行くことができない」と訴える「不安障害」の人たちが増えてきているという。

 「とくに、母親などに付き添われて来る30代くらいの人が増えた」と指摘するのは、精神科、神経科領域の様々な外来に対応している昭和大学付属烏山病院(東京都世田谷区)の高塩理助教(精神医学教室)。

 最近、平均的な5つくらいの中堅企業で働く約400人の会社員に対し、高塩助教ら精神科医が直接、面談などを行ってスクリーニングしてみたところ、驚くべき結果が出た。400人の中に、「社会不安障害」の疑われる人が12%。「パニック障害」や「全般性不安障害」、「PTSD」などの項目でも、それぞれ5~10%の“予備群”が潜在していた。つまり、きちんと正確に診断すれば、「サラリーマンの5人に1人は不安障害に罹っている可能性があり、さらに少なくとも10人のうち6~7人は何かしら精神的に困っている」というのだ。

 「『うつ』の症状を拾う点数方式のチェックシートも併せてやってもらったのですが、これ以上超えると危ないという甘めの点数で評価を設定しても、3人に1人近くは『うつ』の危険水域に達し、4人に1人が確実に引っかかる点数で働いていた。メンタルヘルスで見ると、想像以上に根の深い日本の職場環境の現状がわかったのです」(高塩助教)

 これらの企業の中には、職場内で自殺者が出たり、電車への飛び込み自殺を目撃した社員がいたり、近親者とのトラブルなどがあったりと、聞かなければわからないようなショッキングな出来事を経験している人もいた。しかし、職場では皆、表面上は何事もないように働いていたという。

 「外来の中には、休職者や退職者だけでなく、取締役から中間管理職などの立派な肩書きを持った50代の人たちも目立ちます。中には、すでに定年退職した60代の男性もいました。『人前で話すのが苦手なため、出世をすべて断って来たのに、冠婚葬祭のときにスピーチをしなければいけないから』という理由で初めて受診に訪れ、不安障害であることがわかったのです」(高塩助教)

検査を受けても「異常なし」?
突然襲われるパニック障害の恐怖

 さて、同大学附属東病院(東京都品川区)では、10年近くも前から、この不安障害の一種である「パニック障害」の外来にも力を入れている。

 本連載本連載第7回でも紹介したように、一部上場企業のトップ営業マンだった30代のフジタさん(仮名)が、社長のあいさつの途中や通勤電車の中で突然、発作に襲われた、あの症状だ。