ニュースになった
「反捕鯨団体」と「イルカ追い込み漁」

 反捕鯨団体シー・シェパードのアディ・ギル号と日本の調査捕鯨船との激突は、かなり大きなニュースになった。

 ほとんどのメディアはアディ・ギル号が故意に体当たりしてきたとのニュアンスでこの事件を伝えたけれど、シー・シェパード側はこれを否定している。捕鯨船側が撮った映像を見るかぎり、確かにアディ・ギル号が捕鯨船の舳先に先回りして激突を狙ったかのように見えるけれど、でもこれだけ大きさに違いがあれば(コンボイと軽自動車の差よりも大きい)、ぶつけたところで大きなダメージを与えられないことは明らかだ。つまり激突する意味はない。ないどころか自船のほうが大きな損傷を受ける。シー・シェパード側がそれを覚悟であの(バットマンが乗りそうな悪趣味の)新型船をぶつけてきたとは思えない。おそらくは脅すつもりでぎりぎりでかわすつもりが、結局はかわしきれなくなったというところだろう(あるいは彼らからすれば、当然速度を落とすか針路を変えるかするだろうと予測していた捕鯨船が、同じ速度のまま針路も変えなかったということになる)。

 いずれにせよ危険な行為であることは確かだ。批判されて当たり前だし、船が航行不能なまでに破損したことは自業自得だ。

 このニュースが下火になったころ、今度は和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を撮ったドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」が、アカデミー賞における長編ドキュメンタリー賞を受賞したことが報道された。太地町における撮影は基本的に隠し撮り。太地町の人々やイルカ漁関係者は「明らかな事実誤認の箇所がある」と怒りを示しているという(ということは観たのかな)。

アディ・ギル号の事故は
自業自得だと思うけれど

 さらにこの2日後、アディ・ギル号のピーター・ベスーン船長が、単身で日本の調査捕鯨船に乗り込んできたことが大きく報道された。自船を沈没(破損)させられたことへの抗議行動だという。抗議行動とはいっても、捕鯨船の乗務員に暴行を加えるなどといった暴力的な行為ではない。これも映像で見るかぎり、デッキに上がりこんだ船長はきわめて紳士的に船室への扉をノックしている。拘束に対しても抵抗する気配はない。

 前述したように、アディ・ギル号の事故は自業自得だと思う。でもそれはそれとして、彼らからすれば敵船にたった一人で当たり前のように乗り込んできたことに、集団行動が得意な日本人の一人として僕はちょっと感銘を受けた。それほどに彼らが自らの思想や行動に自信を持っているということでもあるだろう。

 だから彼を乗せた調査捕鯨船が帰港したとき、シー・シェパードを批判する多くの日本人たちが岸壁に集まったとのニュースを聞いて、僕はホームページに以下のコラムを掲載した。

 「もし今時間の余裕があるのなら、反捕鯨団体シー・シェパードの活動家(アディ・ギル号の船長)で調査捕鯨船にたった一人で乗り込んできたピーター・ベスーンを被写体にしたドキュメンタリーを撮りたい。

 捕鯨についての僕の意見はとりあえず措く。調査捕鯨船が入港した晴海ふ頭では、彼に抗議する団体が日章旗を掲げながら「日本の食文化を侮辱するな」、「SSは地球から出て行け」などと激しい抗議活動を繰り広げたという。

 これからは取り調べが始まる。だから撮りたい。彼の視点から見た日本社会。誰か撮ってくれないかな。」