スバルが挑む自動車業界のタブーを打破する試みとは東京・恵比寿のスバル本社1階ショールーム。インタビュー実施日は歴代スバル車が特別展示されていた Photo by Kenji Momota

SNS≠ソーシャルネットワーキングサービス
自動車産業の大変革期に挑む秘策か?

 いまから半年ほど前、2015年4月1日付で富士重工業に新たな部署が生まれた。
 その名は、スバルネクストストーリー推進室。通称SNS推進室だ。

 同社のプレスリリースには「中長期視点でのブランド力および付加価値経営強化の観点から、お客様とスバルとの結びつきや関係強化のための推進部署として、共通部分にスバルネクストストーリー推進室を新設する」とある。

 一見すると、新種のマーケティング戦略に思われるかもしれない。だが、自動車産業界がいま直面している時代の大変革を考えると、SNS推進室は極めて重要な“実験”になるように思える。

「自動運転」、「電動化」、「水素社会」等、自動車産業界を取り巻く技術的な変化は、各国の行政機関による施策を軸足としたロードマップが描かれているので、変化を先読みすることが比較的楽だ。

 一方、「所有から共有」、「クルマの公共化」、そして「若者のクルマ離れ」といった社会変化の実情を読み解き、総括的な未来構想を描くのは極めて難しい。SNS推進室はこうした社会変化について、真っ向から考える場になるはずだ。

自動車産業の最大の弱み
「顧客の実態を知らずに」商品をつくること

 自動車産業は、生産者が消費者に対して商品を強く打ち出す「プロダクトアウト」型ビジネスとして成立している。

 自動車メーカーの商品企画部が新車の構想を練る際、自社ブランド車の市場調査、社会情勢やトレンドのチェック、そして他社の動向を含めた検討をするのは当然だ。

 だが、自動車メーカーは自社製品の購入者とのつながりが希薄であり、自社ブランドに対して現行の顧客がどのように考えているかを知らない場合が多い。

 そうした状況になってしまった理由が、「製販分離」だ。自動車メーカーは作り手、販売するのはディーラーであり、メーカーとディーラーの“距離が遠い”。さらに詳しく言えば、メーカーはディーラーに対し自社の論理での“縛り”を強める一方、各ディーラーは独自の販売方針を貫き、メーカーに対して詳細な顧客データを上げようとしない。こうした傾向は、日系大手ブランドで多く見られる。

 このような「製販分離」による関係者間の“わだかまり”にメスを入れることは、日本の自動車業界のタブーになっていると思う。