ハーバードビジネススクールといえば、ファイナンスや会計等、お金に関する学問を教える大学院というイメージが強いが、リーダーとしての教養を身につけるための「歴史」や「文学」の授業もある。拙著『ハーバードはなぜ仕事術を教えないのか』でも書いたが、ハーバードでは“有能な部下”になるためのエクセル術やプレゼン術は教えない。上司として身につけておくべき教養や考え方を教えるのだ。

中でも文学作品からリーダーシップを学ぶ「モラルリーダー」は、教養系科目の代表格。同科目を20年以上教えているジョセフ・バダラッコ教授は、リーダーシップと倫理が専門だが、世界の文学や日本文化にも造詣が深い。授業でどんな本が課題図書となっているのか、日本人のビジネスパーソンが今、読んでおくべき本は何か、バダラッコ教授に聞いた。(聞き手/佐藤智恵 インタビューは2015年6月23日)

日本は「高度に文明が進んだ国」

これがハーバードの課題図書!<br />できる人ほど文学を読むジョセフ・バダラッコ Joseph Badaracco
ハーバードビジネススクール教授。専門はリーダーシップと企業倫理。同校のMBAプログラム、エグゼクティブプログラムにて企業倫理、経営戦略、マネジメント等を教えている。リーダーシップ、企業倫理、道徳的価値をテーマとした講演多数。世界各国のエグゼクティブ講座でも教鞭をとり、日本の野村マネジメント・スクールでは主任教授を務めている。リーダーシップ、リーダーの決断と責務についての著書も多数出版。主な著書に『ハーバード流マネジメント講座 ひるまないリーダー』(翔泳社)、『静かなリーダーシップ』(翔泳社)がある。

佐藤 1980年代から野村マネジメント・スクールのエグゼクティブ講座で教えているとのことですが、そもそも日本に興味をもったきっかけは何だったのでしょうか。

バダラッコ ハーバード大学の博士課程に在籍中、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスの4ヵ国を比較し、政治・経済の分野でどのような協力関係、対立関係にあるかを研究しました。博士号の取得後、「この博士論文に日本を比較対象として加えて、本として出版しませんか」という話が来ました。そこで日本を研究することにしたのですが、日本国内の調査では野村総合研究所に大変お世話になりました。それが縁で野村マネジメント・スクールでも教えることになったのです。

佐藤 バダラッコ教授は日本文化についても造詣が深いですが、どのように日本文化について研究されたのですか。

バダラッコ 日本について書かれた本を数多く読むようにしています。日本は世界でも特殊な国で、あらゆる意味で、「高度に文明が進んだ国」です。アメリカ人である私が簡単に理解できる国ではありませんが、それでも出来る限り日本文化について学びたいと思っています。

佐藤 どのような本を読んでいますか。

バダラッコ 私は日本文化全般に興味があるので、ビジネス書よりも歴史や文化について書かれた本が多いですね。今、読んでいるのは、“The Lady and The Monk: Four Seasons in Kyoto”(レディーと僧侶:京都の四季)という本です。ピコ・アイヤーというイギリス人作家が、自分が生まれ育ったイギリスと日本を比較しているところが面白いです。イギリスと日本は同じ島国で共通点も多いですからね。