2010年4月から「資産除去債務」という会計基準が日本企業に適用されることとなった。とはいえ、「資産除去債務」という言葉にピンとこない方が多いのではないだろうか。それもそのはず、この基準は2015年または2016年に上場企業に適用されるといわれるIFRS(国際会計基準)との差異を埋めるため、今回初めて日本で採用された基準だからだ。

「資産除去債務」とは、将来の資産売却や賃貸物件の返済に向けて、固定資産を契約・法令が定める元の状態に戻すための費用を見積もって、債務として計上するものである。これまで日本では、有形固定資産の使用を中止し、売却・廃棄などする際に初めて原状回復に関する費用などを計上してきた。

 しかし、今後は設備の取得・建設時にその費用計上を検討し、使用中にも新規債務計上の要否を検討しなければならない。そのため、固定資産を多く抱える企業や原状回復に多額の費用を要する固定資産を持つ企業は、損益に大きな影響が出ると同時に、事務負担が重くなりそうなのだ。

 では一体、どういった企業が「資産除去債務」の影響を大きく受け、各企業はそれにどう対応していけばよいのだろうか。また、IFRS適用後の「資産除去債務」は日本基準と何が異なり、今からどう備えておけばよいのか。今回は、未だ馴染みの薄いこの会計基準について、詳しく見ていくことにしよう。

大規模施設を持つ化学業界と
多店舗展開の外食・小売は要注意!

「大きな影響を受けるのは、化学業界をはじめとした大規模工場を持つ企業や多店舗展開をおこなっている外食・小売業界だろう」

 こう語るのは、公認会計士の高桑昌也・エスネットワークス取締役。化学業界と外食・小売という畑違いの業界が大きな影響を受けることに、読者は違和感を感じるかもしれない。しかし、両者は「原状回復」に関するコストが大きいという点で共通している。

 まず、化学業界など大規模工場を持つ企業は、工場施設の解体によって有害物質を発生させたり、土壌汚染されている可能性が考えられる。そこで、こうした工場を持つ企業は、法律で除却義務が課されているアスベストなどの有害物質の除去費用や、土壌汚染対策法などで修復義務を負っている土壌改良費用などを負担しなければならない。

 典型的な例として挙げられるのが、原子力発電所を抱える電力業界だ。原子力発電施設の解体には数百億円かかるという試算もあるほどで、その負担は大きい。